蘇った「テクニカラーの美女」
最新技術で修復されたヒッチコック『めまい』のDVDが980円で発売されていて、思わず買ってしまった。
『めまい』は数あるヒッチコック作品のなかでも傑作として知られるし、そのめくるめく色彩のマジックのような映像は30年以上前に見たにもかかわらず鮮明に記憶に残っている。それだけじゃなく、キム・ノヴァクの匂うような女っぽさに大学生のこちとら、クラクラきた。
「テクニカラーの美女」って言い方がある。色の鮮やかさが際だつテクニカラーは『風と共に去りぬ』で評判になり、コダックのイーストマン・カラーに敗れて姿を消すまで、ハリウッドのたくさんの映画に使われた。肌色のつややかさ、衣装の発色の美しさ。テクニカラーは女優を美しく見せる。
「テクニカラーの美女」は、本来もう一世代古いモーリン・オハラ(赤髪がよく映えた)なんかを指すのだろうけど、僕にとって「テクニカラーの美女」といえば、この映画のキム・ノヴァクに尽きる。
レストランの緋色の壁を背景に、緑と黒の豪華なドレスに身をつつんだキム(写真)。白に近いブロンドの髪に白ブラウス、グレイのツーピースと同系色でまとめ、幽霊のように存在感の薄いキム。白いコートに黒のスカーフが風になびく海辺のキム。記憶のなかの「テクニカラーの美女」が蘇った。
キム・ノヴァクだけではない。カーテンに緑のネオンが映える幻想的な室内シーン。夜の町が漆黒に沈む交差点のインサート・ショット。樹齢2000年の杉に囲まれた森の闇の深さ。画面が赤や紫に変化するジェームズ・スチュワートの錯乱シーン。こんなに色彩をうまく使った映画はほかにない。
そんな映像が、おそらく1958年の公開時そのままの色彩で見られるのが嬉しい。
内容に関して言えば、『めまい』ほどさまざまに語られた映画も少ない。しかもヒッチコック自身がフランソワ・トリュフォーの質問に答えて、「この男は死んだ女と寝ること、つまり屍姦に夢中になっているわけだ」と、隠されたテーマをずばり語っている(『ヒッチコック トリュフォー 映画術』)。であれば、これ以上言葉をついやす必要もなく、ブロンド・フェチ=ヒッチコックの歪んだエロティシズムに惑乱するのみ。
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