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January 15, 2006

『キング・コング』とリュミエールの機関車

髑髏島からニューヨークに運ばれたキング・コングは劇場で見世物にされる。コングを捕らえた映画監督ジャック・ブラックが口上を述べて幕が開くと、そこには生きたコングが鎖につながれている。やがて興奮したコングが鎖を断ち切って暴れ出すと、観客はわれ先に逃げまどう。

1本の古い映画を思い出した。19世紀末に映画の父・リュミエール兄弟がつくった『列車の到着』。当時、映画は誕生したばかりで、映像が動くこと自体が珍しく見世物として人気を集めていた。

僕はほんの断片を映画の黎明期を扱った記録映像で見ただけだけど、はじめスクリーン奥の小さな点だった機関車があっという間に観客に向かって驀進してくる。列車が駅に到着するのを撮っただけの映画なのだが、観客は自分が轢かれるのではないかと恐怖しておののいたという。フィルム上の虚像が実物と錯覚されたわけだ。

映画は誕生のその瞬間から、視覚的な驚きを観客に与えることで興行として成り立ってきた。やがてそれがスペクタクル映画という大衆映画の一ジャンルになり、1933年につくられたオリジナル版『キング・コング』は特殊撮影による古典的名作と言われる。

2005年版『キング・コング』は、エンド・ロールでオリジナル版へのオマージュを捧げている。監督のピーター・ジャクソンはオリジナル版にオマージュを捧げながらそれにとどまらず、オリジナル版を通して映画そのもの、なかんずく見世物(スペクタクル)としての映画にオマージュを捧げているように、僕には感じられた。劇場で鎖につながれ、鎖を解いて観客に襲いかかるキング・コングはリュミエール兄弟の機関車なのだ。

05年版は、時代に合わせて現代化された1976年版と違って33年版に忠実にリメイクされている。時代や人物設定、ストーリーがほぼ同じであるばかりでなく、同じシーン、同じセリフ、同じショットまで出てくる。そのようにリスペクトしながらも、当然のことながら05年版『キング・コング』は今日ただいまの映画としてつくられている。

オリジナル版に対して、05年版で新しく付け加えられた要素が3つあるように思えた。ひとつは、映画についての映画というメタなサブ・テーマを浮上させたこと。ふたつめはもちろんCGを始めとする最新のデジタル技術。もうひとつは、キング・コングとナオミ・ワッツという美女と野獣の関係のあり方の変化。

オリジナル版でも映画の撮影隊が南海の髑髏島を目指すのだけど、それはストーリーのうえで美女と野獣を出会わせるのに都合よいという以上の意味を持っているようには見えない。そこを05年版は、ジャック・ブラック扮する映画監督の狂ったような映画への執念と偏愛、富と名声への野望を描いて、当時の映画がどんなにいかがわしく投機的なものだったか、そしてそれが今も昔も変わらぬ映画の魔力であることを浮かび上がらせている。

19世紀、南の海の果てには欧米人が足を踏み入れたことのない島々が無数にあり、そこで「発見」された珍しい動植物や、ときには「原住民」までもが持ち帰られて見世物にされた。19世紀のニュー・メディア、写真や映画はそんな博物学的かつ植民地主義的好奇心を満たす役割も果たしながら発達した。コンラッドの『闇の奥』がちらりと出てくるのは、そんな歴史的背景を示唆しているのに違いない。

髑髏島で恐竜に出くわして興奮し、命の危険も顧みずカメラを回そうとする映画監督ジャックは、そんな冒険的で投機的な植民地主義者の血を引いている。恐竜に追われてカメラが壊れ、露光してしまったフィルムを監督が見つめるシーンはいかにも悔しそうだったものね。

失われたフィルムの代わりに、監督はもっと大きなスペクタクル、生きた「原住民」(キング・コング)を持ち帰る。76年版(ジェフ・ブリッジスとジェシカ・ラングしか記憶に残らない平凡な映画だった)でNYに運ばれたキング・コングは確か野外のスタジアムで公開されたけれど、キング・コングはだからオリジナル版通り劇場で見世物にされるのがふさわしい。

キング・コングというモンスターは、失われたフィルムに代わる、よりスペクタクルな獲物であり、両者が取り替え可能ということは、逆に言えば映画というスペクタクルなメディアもまたモンスターとして人々の心をつかみ、破壊する力を持っているということでもある。その源がリュミエール兄弟の機関車であり、ピーター・ジャクソン監督はそんなモンスターとしてのスペクタクル映画にオマージュを捧げたのだ……てなことを考えさせるメタなテーマを、この映画は隠し持っているように思った。

もうひとつのCGを始めとするVFXについて、僕は技術的なことはよく分からない。でもその凄さは映画を見れば一目瞭然。

特にエンパイア・ステートビルによじ登ったキング・コング(ちなみに76年版は世界貿易センタービルによじ登り、今となってはそれも意味深いね)を複葉機が銃撃するシーンは圧巻。当時の写真をもとに再現したという、摩天楼が立ち並ぶ1933年のNY市街を俯瞰した素晴らしいショットや、カメラが複葉機の視点になって摩天楼の頂上をかすめて飛ぶスピード感、回転する感覚は『スター・ウォーズ』以上だった。

キング・コングそのものは33年版がミニチュアとスクリーン・プロセス(プロジェクター合成)でつくられ、76年版は『猿の惑星』あたりから進化した特殊メークによるリアルな表情が売りだった。05年版はミニチュアと特殊メークに加えて最新のCG技術が駆使され、キング・コングと恐竜の対決シーンや、恐竜に追われて登場人物が逃げまどい踏みつぶされるシーン、巨大昆虫に襲われるシーンなんか実写みたいにリアル。サービス過剰だけどね。

ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』『キング・コング』チームは、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』チームと対抗して、これからのVFXをリードしていくんだろうな。

美女とキング・コングの関係も、33年版と05年版ではずいぶん違う。

33年版では、キング・コングにさらわれた金髪美女のフェイ・レイ(言うまでもなくジェシカ・ラングもナオミ・ワッツも金髪)は、ラストシーンのエンパイア・ステートビルのてっぺんに至ってもまだ恐怖の悲鳴を上げていた。いわばコングがフェイ・レイに一方的に片思いする関係。フェイ・レイは野獣に襲われ、身につけた服を剥ぎとられ、当時としてはかなりエロティックな姿にさせられる、野獣(男)に従属を強いられる存在として描かれている。

でも05年版では、恐竜に襲われたナオミをコングが助けた直後に、ナオミはダンスを踊ってコングの気を引きはじめる。コングはいちころ。2人(1人と1頭?)は、ナオミがむしろコングをリードする感じで相思相愛の関係になる。

2人のシーンはまるで『タイタニック』のディカプリオとケイト・ウィンスレットを見てるみたい。絶壁の上に仲良く座り、水平線に沈む夕陽をながめながらナオミが「美しい」とつぶやいて、世界の中心で愛を叫ぶ純愛ぶり。ナオミの露出度も、最近の映画に比べればどうってことない。

76年版はどうだったんだろう。覚えてないけど、後にジェシカ・ラングがデビュー作の76年版について、屈辱の体験だったみたいな発言をしていた記憶がある。ということは33年版に近いつくりだったのか、でも70年代のフェミニズムの時代の映画だから、05年版に近い関係になっていたのか。

美女と野獣の関係について、ここから更に何か言えそうだけど、長くなってしまったので野暮なことはやめ。

そんなふうに楽しめた映画だけど、3時間以上の上映時間はスペクタクル映画としては長すぎた。ひねくれたジジイの感想としては純愛部分をあっさり処理してほしかったな。


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Comments

トラバありがとうございました。
私は三時間と知らずに観はじめて、くだんの虫やら恐竜大決戦のシーンの時点でふと「あれっ!?まだNYへ行かないのか?もう時間がないのでは?」とミョーな心配をしてしまいました。
最近は三時間の大作も増えてますが、昔と違って休憩時間もないし体感的にも三時間という尺に慣れてない場合はよほど映画の作り方にうまいリズムとテンポがないとだれてしまいがちかも知れませんね。
てなわけでこれからもよろしくおねがいします。

Posted by: よろ川長TOM | January 15, 2006 at 02:03 PM

昔、長い映画は途中で「INTERMISSHON」と出て、場内が明るくなり、みんなトイレに走りましたね。面白い映画だと、もう半分見てしまったのが惜しいような、あと半分残っているのが楽しいような。

最後に経験したのは『ディア・ハンター』あたりだったでしょうか。『ラスト・エンペラー』なんかも「INTERMISSHON」があったかな?

Posted by: | January 16, 2006 at 06:26 PM

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