アピチャートポン監督の映画2本
タイのアピチャートポン・ウィーラセータクン監督の映画を2本見た(11月18日、赤坂・国際交流基金フォーラム)。
1本は『真昼の不思議な物体』(2000)。アピチャートポン監督の撮影隊がタイの町や村を移動しながら、出会った人々に「足の悪い少年と家庭教師」の物語を即興で紡いでもらう。人々が語った物語を俳優たちが演じ、それを人々が見ている。ドキュメンタリーとフィクションを往復しながら、出会った人々の想像力にまかせて物語は進んでゆく。その間に映し出されるタイの町や村の人々や風景がリアルだ。山形国際ドキュメンタリー映画祭優秀賞を受賞した作品。
もう1本は『アイアン・プッシーの大冒険』(2003)。アメリカ生まれのタイ人アーティスト、マイケル・シャオワナーサイ(脚本・監督・主演)との共同監督作品。これが何とも奇妙奇天烈で楽しい映画。「アイアン・プッシー」はマイケルがつくったキャラクターで、女装のスパイ(写真)。マイケル自身が演じている。
普段はスキン・ヘッドの冴えない兄ちゃんでセブン・イレブン店員のマイケルが、事が起こるとスーパーマンみたいに女装のアイアン・プッシーに変身する。ミッション・インポッシブルみたいな指令を受けて、タイの女富豪と怪しい外国人の謎を探るために、プッシーは富豪の豪邸にメイドとして住み込む…。
過去の無数のエンタテインメント映画の定番シーンが次々に登場する。冒頭は西部劇の酒場の乱闘。変身はスーパーマンというより仮面ライダーをもっとチープにした感じ。ミッション・インポッシブルはセブン・イレブンのレジに呼び出しがかかり、寺で指令を受けるシーンはミュージカルになって歌と踊りつき。女富豪の豪邸に忍び込んでの活劇は007で、やがてアジア映画お得意の母子物語になり、「人生のハードルを乗り越えるのは麻薬じゃなく仏法よ」と仏教国らしい教訓で終わる。もちろん恋と笑いもたっぷり。
女装のはずがいつの間にか本物の女になってしまったり、辻褄もなにもないけど、パロディじゃないし、かといって本気でもない。くすんだビデオ映像はアート作品のようでもあり、ハリウッドのエンタテインメントとは別な、ゆるい楽しさがあるから商業映画として成り立ちそうでもある。タイでは、どんな形で公開されたんだろう。
(後記。「上倉監督の超責任映画論」によると「会場内はあたかもミュージシャンのライブかお笑いの舞台のような有様。こんなにも見る側が発散して見れる映画や国と言うものがあることに感動しました」)
残念ながら見られなかったけれど、同時上映されたアピチャートポン監督の『ブリスフリー・ユアーズ』はカンヌ映画祭「ある視点」グランプリで、『トロピカル・マラディ』はやはりカンヌの審査員賞を受けた作品。見てみたい。イメージ・フォーラムあたりで公開してくれないかな。

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