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November 18, 2005

『ブラザーズ・グリム』の森

グリム童話を読んだのは小学校低学年のころだから、もう50年も前のことになる。それ以来いちども読み返してないけれど、今でも鮮明に残っているのは、いくつもの童話の舞台になっている森のほの暗い不気味さだ。とくに「ブレーメンの森の音楽隊」。東京近郊、関東平野のど真ん中で育ったから、森といってもせいぜい武蔵野の明るい雑木林しか知らない子供に、魔物が棲んでいる怖ろしい空間の印象は強烈で、森というもののイメージは実際の森ではなくグリム童話によってつくられたと言ってもいいくらい。

「ブラザーズ・グリム」は、そのグリム童話の森の不気味をキーワードに「赤ずきん」「白雪姫」「ヘンデルとグレーテル」なんかを組み合わせ、さらに作者であるグリム兄弟を登場させたブラックな味のファンタジー。

僕は流行りのファンタジーものにほとんど興味がないのだが、善悪が対立して善が勝利を収める単純な図式と金のかかったVFXという定番とはひと味ちがう映画に仕上がっている。そう思うと、森の木や根っこが動く、ややチープな感じのするVFXまで好ましい。

もうひとつ、この映画がグリム童話のほの暗い雰囲気を再現するのに成功したのは、プラハにロケしたからではないかな。グリム童話の舞台であるドイツでは、今では原生林はほとんど残っていないという。多分、プラハを拠点に近郊の森で撮影されたのだろうけど、いくらVFXやセットといっても素材となる現場の空気までは変えられない。カフカの原作をロシアで映画化した『変身』も確かプラハ・ロケだったように記憶するが、本国ドイツでは失われた前世紀の雰囲気がまだここでは残っているのだろう。

テリー・ギリアムの『ドン・キホーテを殺した男』が中断に追い込まれるまでを記録した『ロスト・イン・ラマンチャ』はなんとも面白い(アン)メイキング・フィルムだったけど、前作の失敗に懲りず、ファンタジーとはいえ子供の動員を見込めないブラックな映画をつくったテリー・ギリアムは腰の座った男だね。

マット・デイモンの田舎男ふうなペテン師のグリムもいいし、モニカ・ベルッティが魔性の魅力をたたえている。こういうお姫様になら、おじさんはいくらたぶらかされてもいいな。


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Comments

暗い森の雰囲気がとってもよかったですね。
森には小さい頃からあこがれていますー。
日本だと山林になってしまうんですよね。
ブレーメンの音楽隊も大好きですー。

Posted by: かえる | November 18, 2005 06:02 PM

このロケ地は「スリーピーホロウ」と同じ場所だそうで、雰囲気は良かったですね。
やや薄味に小生は感じましたが、テリー・ギリアムとなると期待しすぎるのかもしれません…。

Posted by: sheknows | November 18, 2005 10:38 PM

>かえるさま

あの森の暗さは、むかし読んだ記憶を昨日のことのように思い出させてくれました。「かえる」がよかったですね。

>sheknowsさま

『スリーピーホロウ』は残念ながら見ていませんが、この手の映画にはうってつけの雰囲気ですね。

確かに、テリー・ギリアムだと期待しすぎてしまいます。でも『ロスト・イン・ラマンチャ』の後も企画が何本か流れたらしいですから、見られるだけでよかったと、つい甘くなったりして。

Posted by: | November 20, 2005 12:21 PM

初めまして
最初にグリム兄弟が集めて回った”伝承民話”は とても子供向けでは無いような残酷なものだったと聞いておりますので、この映画はちょっと近いかもと思ったりしてます(^^;)

Posted by: マダムS | November 23, 2005 07:02 AM

>マダムSさま

TBありがとうございます。
こちらからも訪問させていただきます。
それにしてもこの映画は好き嫌いが別れますね。

Posted by: | November 24, 2005 05:53 PM

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