« 『アワーミュージック』の官能 | Main | 常滑散歩 »

October 23, 2005

『ドア・イン・ザ・フロア』のJ・ブリッジス

『ドア・イン・ザ・フロア』を見ていて、興味は途中から映画そのものよりジェフ・ブリッジスとキム・ベイシンガーに移っていた。2人とも好きな俳優だということもあるけど、映画そのものが平板で、ハリウッド的なエンタテインメントとは別の映画を目指したのはわかるけれど、それが生きてこない。主演がこの2人でなかったら退屈していたろう。

ジョン・アーヴィング原作の映画は「ガープの世界」(ジョージ・ロイ・ヒル監督)にしても「ホテル・ニューハンプシャー」(トニー・リチャードソン監督)にしても、あるいは「サイダーハウス・ルール」(ラッセ・ハルストレム監督)にしても、それぞれにおもしろい映画だった。どうやらジョン・アーヴィング自身が自作の映画化に積極的にかかわり(「サイダーハウス」は脚本も書いている)、監督の人選も彼自身が決めているらしい。「ガープの世界」と職人肌のエンタテイナー、ジョージ・ロイ・ヒルの組み合わせなんてどうなるのかと思ったら、これが実によかった。

だから今回も、トッド・ウィリアムスという監督は知らないけれど(これが2作目。日本では初公開)、それなりに期待していた。奇をてらうようなショットがひとつもなく、丹念に人物とロングアイランドの風景を造型しようとする意思は伝わってくる。でも、それ以上ではない。

例えば家のなかに死者の写真が満ちていることの異様さや、ジェフ・ブリッジス演ずる作家が意図的にキム・ベイシンガー演ずる妻に少年を「あてがう」壊れた感覚、浮気相手のミミ・ロジャースにジェフ・ブリッジスが追いかけられるシーンなんかは、もう少し恐怖や狂気や滑稽さを「決めて」ほしかった。でないと、ラストシーンが生きてこないように思う。

ジェフ・ブリッジスは失敗した作家であり、成功した児童文学者でもある役どころ。髭面に二重顎、おまけに腹の出た中年男が、妻を愛しながら女に狂い、妻に少年を「あてがう」複雑な内面をもった役を、大げさな身振りも大声をあげるセリフもなしに演じている。キム・ベイシンガーも「LAコンフィデンシャル」以来の静謐な美しさが忘れられない。

ジェフ・ブリッジスという役者には、どの映画を見ても同世代としての共感を抱いてしまう。1949年生まれの56歳だから僕より2歳若いけど、第二次大戦後のベビーブーマー世代(日本では団塊世代)。

初めて見たのは、いうまでもなく「ラストショー」(1971)だった。美人のガールフレンドに振られる高校生役。バカにされてもにやついている頼りなさげな表情がよかった。そんな頼りなさげな男とか、お調子者といった役柄は若い頃のブリッジスについてまわり、「サンダーボルト」でも「天国の門」でも主役の引き立て役にすぎなかった。

80年代になって、ジェフ・ブリッジスは惚れ惚れするほどいい男になった。それを決定づけたのが「800万の死にざま」(1986)。ハードボイルドもの、アル中の私立探偵マット・スカダーを演じて、映画にもブリッジスにも泣けた。僕は原作のローレンス・ブロックが好きなので、以後、このシリーズを読むとブリッジスの顔が浮かんでくる。

もう1本、80年代の代表作が「恋のゆくえ ファビュラス・ベーカー・ボーイズ」(1989)。ジャズ・ピアニストのジェフ・ブリッジスと歌手のミシェル・ファイファーの、実らない恋の物語。日常のさりげない描写と、ブリッジスが弾くグランド・ピアノの上でファイファーが身をくねらせながら歌うセクシーな描写の対比が素敵だった。ブリッジスは自分でピアノを弾き(さすがに音は吹き替え)、ファイファーは自分で歌っていて(こちらはプロはだし)、アメリカの俳優のすごさも知った。僕はファイファーのファンでもあるから、この映画、5回くらい見ている。

80年代のブリッジスは、同世代としての共感もあるけど、むしろこうありたい願望みたいなもの。

90年代に入ると、やや性格俳優的な役柄が多くなる。「アメリカン・ハート」のアル中の父親。「ビック・リボウスキ」ではやたら太った元ヒッピー。50代になったブリッジスは、おかしみのある役を飄々と演じていて、ここでも、やっぱり同世代だなと思った。

ジェフ・ブリッジスはデ・ニーロのようなビッグ・ネームではないし、強い個性の持ち主でもない。賞とも無縁だ(アカデミー賞に4回ノミネートされたけど無冠)。でも20代からつきあい始め、50代になった今でも、他の人には感じない世代的共感をなぜか感じてしまう。彼の映画が来たら、また見に行ってしまうにちがいない。


|

« 『アワーミュージック』の官能 | Main | 常滑散歩 »

Comments

こちらにもTBさせて頂きました。
主役二人につきますね この映画。
私も「ファビュラス・ベーカー・ボーイズ」好きです♪ 「フィアレス」「光の旅人」も。

Posted by: マダムS | November 23, 2005 07:20 AM

>マダムSさま

つい1週間前にもまた「ファビュラス・ベーカー・ボーイズ」を見て堪能し、この映画のサントラを捜してみようと思いました。

Posted by: | November 24, 2005 05:57 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『ドア・イン・ザ・フロア』のJ・ブリッジス:

» ドア・イン・ザ・フロア(2004米) [WAKOの日常]
The Door in the Floor Tod Williams 「ガープの世界」「サイダーハウス・ルール」の原作者ジョン・アーヴィングの作品といったら気になります。今回の映画は、原作「未亡人の一年」の前半のみなのだとか。どおりで、「未亡人」も「一年」も見当たらないわけです。 これが切り取られた一部分だったからか、試写会を観終わった人は口々に「これで終わり?」「難しい・・・」と言っておりました。確かに難しい気がしました。性的描写が多い中、「select words(言葉を選んで)」... [Read More]

Tracked on October 24, 2005 10:31 PM

» 「ドア・イン・ザ・フロア」ベイシンガーがますます過激! [新作映画ピンポイント情報]
 「ドア・イン・ザ・フロア」(ヘラルド)は、米文学界の巨匠ジョン・アーヴィング原作の映画化作品!「シービスケット」(04 [Read More]

Tracked on October 26, 2005 09:42 AM

» ■ザ・ドア・イン・ザ・フロア The Door in the Floor ジェフ・ブリッジス [ツボヤキ日記★TSUBOYAKI DIARY]
■The Door in the Floor / ザ・ドア・イン・ザ・フロア ●映画「The Door in the Floor」(ザ・ドア・イン・ザ・フロア)は、「ガープの世界」「ホテル・ハンプシャー」「サイダーハウス・ルール」の著者でもあるジョン・ア一ヴィングのベストセラーであり、ファンの間では最... [Read More]

Tracked on October 30, 2005 02:07 AM

» ドア・イン・ザ・フロア @恵比寿ガーデンシネマ [Viewer's Voices]
これは、あるトラウマを抱えた夫婦テッド(ジェフ・ブリッジス)とマリアン(キム・ベイシンガー)の物語で、原作はジョン・アービングの「未亡人の一年」である。原作は37年間に渡る話であるらしいが、映画は、その前半部分のひと夏を描いている。 夫婦の話でありながら、お互いに語り合うシーンは非常に少なく、作家志望の高校生エディ(ジョン・フォスター)が狂言回しのような役割を果たしており、彼を通じて夫婦の会話が成立しているという状況が続く。 映画のタイトル「ドア・イン・ザ・フロア」とは、作家であるテッドが書い..... [Read More]

Tracked on October 31, 2005 09:15 PM

» 『ドア・イン・ザ・フロア』〜Listen to The NEXT〜 [Swing des Spoutniks]
『ドア・イン・ザ・フロア』公式サイト ジョン・アーヴィング『未亡人の一年』(新潮文庫) 監督:トッド・ウィリアムズ出演:キム・ベイジンガー ジェフ・ブリッジスほか 【あらすじ】(フライヤーより)著名な児童文学作家テッドと妻のマリアンは、愛くるしい一人娘の....... [Read More]

Tracked on November 20, 2005 09:15 AM

» 『ドア・イン・ザ・フロア』 [Brilliant Days]
以前すでに映画化された原作者ジョン・アーヴィングの作品「サイダー・ハウス・ルール」「ホテル・ニューハンプシャー」のファンだったので、これは観ようと思ってました。 時には道徳に触れるような人間の行為や、重苦しいテーマを扱っていながら、何故か暗くなく、傍から..... [Read More]

Tracked on November 23, 2005 07:16 AM

» 『ドア・イン・ザ・フロア』 [浮遊日記]
『ドア・イン・ザ・フロア』(2004 アメリカ) 監督、脚本:トッド・ウィリアムズ 原作:ジョン・アーヴィング 出演:キム・ベイシンガー     ジェフ・ブリッジス     ジョン・フォスター     ミミ・ロジャース アメリカの天才作家と言われている、ジョン・アーヴィングの「未亡人の1年」という小説の前半部分が本作は原作になっている。 あらすじ 海辺の家に住む著名な児童文学作家テッド・コールとその妻マリアン。4歳の一人娘ルースとともに裕福で何不自由ない... [Read More]

Tracked on December 04, 2005 01:20 AM

» 「ドア・イン・ザ・フロア」キム・ベイシンガーが美しい [soramove]
「ドア・イン・ザ・フロア」★★★ キム・ベイシンガー、ジェフ・ブリジッジス主演  トッド・ウィリアムズ監督、アメリカ、2004年 キム・ベイシンガー 好きな女優のひとりだ。 ミッシュエル・ファイファーや キャサリン・ゼタ・ジョーンズは 名前も女優っ...... [Read More]

Tracked on December 04, 2005 10:28 PM

» ドア・イン・ザ・フロア [□film-navi〔フィルムナビ〕]
映画の情報サイト、フィルムナビです。当サイトのドア・イン・ザ・フロア情報のページから、このブログへリンクをはらせて頂きました。他の映画の感想など書かれた時には、お気軽にフィルムナビの方へもトラックバックして下さい、お待ちしております。... [Read More]

Tracked on December 11, 2005 10:06 PM

« 『アワーミュージック』の官能 | Main | 常滑散歩 »