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July 23, 2005

『スター・ウォーズ』のブッシュ批判?

『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』は反ブッシュ(反アメリカ)映画ではないかと話題になっている。

例えば「町山智浩アメリカ日記」では、ニューヨーク・タイムズのこんな記事を紹介している。「すでに暗黒面に取り込まれてしまったダースベイダーは、ジョージ・ブッシュの言葉と共鳴するセリフをオビワンに向かって言う。『俺に味方しないやつらは敵だ』」。

また「西森マリーのUSA通信」は、別のセリフに注目している。「上院会議でパルパティーン最高議長が『我々は安全で危害を受けることのない社会を作るために宇宙最初の銀河帝国となるのだ』と演説し、上院たちが拍手喝采をした後のパドメの台詞を見てみましょう。
 "This is how liberty dies. With thunderous applause.(自由はこうして死ぬのね。万雷の拍手を浴びながら)"
 これって、ブッシュのことを21世紀の救世主だと思っている原理主義キリスト教徒たちやネオコン、さらにテロに襲われるより警察国家で暮らしたほうがマシと信じている多くのアメリカ人が、公民権を踏みにじるブッシュの内政や国際法に違反する戦争を繰り返すブッシュの外交を盲目的に支持することを皮肉った一言としか思えませんよね」。

2005年、夏 スターウォーズの夏」には、カンヌ映画祭に出席したジョージ・ルーカスが、これはブッシュ批判映画ではないかという質問に、こう答えたと紹介されている。「筋書きは30年前につくったものであり、類似点は単なる偶然に過ぎない。まさか、現状とこれほど酷似するとは想像もしなかったよ」。ルーカスは、さらにこうも付け加えたという。「映画のなかでの出来事が、我が国で現実のものにならないことを祈っている」。

まあ、ルーカスがブッシュ批判を意図していたとしても、アメリカと世界のメジャーな観客を相手にしている以上、これ以上のことは言えないよね。

映画を見れば一目瞭然だけど、『エピソード3』は共和制から帝政へと移行したローマ史を下敷きにしてる。銀河共和国では分離主義者との内乱が続いてる。元老院のなかで、内乱を裏から操るパルパティーン最高議長に権力が集中していく。議長は、世界に「安全と安定」をもたらすため、元老院議員の圧倒的支持を得て共和国の解体と銀河帝国の誕生を宣言する。彼自身が銀河帝国の皇帝となる。「自由はこうして死ぬのね」というセリフは、この直後に発せられる。

このストーリーがアメリカ批判に映るのは、ひとつには、唯一の超大国となった現在のアメリカが例えば「デモクラシーの帝国」(藤原帰一)というように、「帝国」に擬せられていることによる。そしてまた、アルカイダやイラン、北朝鮮に対してブッシュとネオコンが口にする言葉が、まるでハリウッド映画をなぞるように「善」と「悪」、正義とならず者といった単純な二元論に基づいていることにもよる。

気づいたことを一、二、メモしておこう。

銀河帝国と戦っている分離主義者が逃げ込む星は「ムスターファ」と名づけられている。これは誰が見てもアラブ-イスラムを連想させる名前だ。確かオスマン・トルコにムスタファという支配者がいた。ルーカスはさすがに敵にアラブ-イスラム系の名前をつける愚は犯していないけど、なぜことさらにそんな連想を誘う名前の星を設定したのだろう。

ジェダイ騎士のアナキンは分離主義者と戦うためにムスターファに赴き、さらにアナキンがダークサイドに堕ちたと知ったオビ=ワンも彼を追う。溶岩と火の星であるムスターファを舞台に、アナキンとオビ=ワンの対決が繰り広げられる。

アナキンとオビ=ワンは師弟であり、ともにジェダイ騎士だから、もと一つだった人格が二つに分裂して戦っているのだとも考えられる。そしてダークサイド側の人格であるアナキンは、業火に焼かれてダースベイダーへの道をたどる。ムスターファ星が、アナキンがダースベイダーへと変身するための場を提供し、その溶岩と火が触媒の役割を果たしている。

ところでジェダイって何なのだろう。たくさん出てる「スター・ウォーズ本」を読めば解説されてるだろうけど、映画を見て分かるかぎり、選ばれた者のみに備わる特殊能力フォース(力)を正義の実現ために使う、ある種の宗教のようなものだろうか。「ジェダイ聖堂」というのが出てきて、子どもたちがそこでジェダイへの道を学んでいるから、どうやら銀河共和国(帝国)にとっては宗教としての役割を持っているらしい。

ということは「ジェダイの予言」とはキリスト教にとっての旧約聖書であり、ジェダイ騎士は十字軍の騎士と考えればいいのだろう。ジェダイ評議会とはバチカンで、その指導者ヨーダは法王と考えればいいのか。ジェダイが正統派のローマ教会だとすれば、フォースを悪のために使おうとするダークサイドとは、悪魔に仕えるとしてローマ教会に弾圧された異端派ということになる。ジェダイ評議会(宗教)と元老院(政治)がどういう関係にあるかははっきりしないが、宗教の指導のもとにありながらも、一応は政教分離されているようだ。

だから『エピソード3』とは銀河帝国内部の宗教戦争であり、異端派教会ダークサイドが帝位を簒奪して正統派教会ジェダイを辺境に追いやった映画だと考えられる。だから『エピソード4』につづく3部作は、辺境の正統派教会が権力を握った異端派教会を駆逐して、キリスト教がローマ帝国の国教になったように、帝国の国教の地位を回復するまでの映画だったわけだ。その連想の延長で言えば、ダースベイダーは、さしずめカエサルを裏切った(改心した)ブルータスといったところか。

ところで、ジョージ・ルーカスはこの映画でブッシュ批判を意図していたのだろうか。僕の印象では、やはりその意図はあったように思う。もちろん練達の職人であり、経営者であり資本家でもあるルーカスは、『アメリカン・グラフィティ』でオールディーズの懐かしい響きにベトナム反戦の心を柔らかく包んだように、それを露骨に表現するようなことは決してしない。

でも、それはどっちでもいいと思う。ブッシュ批判であろうとなかろうと、映画そのものの評価に関係するわけではない。僕がこの映画にがっかりしたのは(もちろん楽しんだけど)、ダースベイダーというシリーズ最高のキャラクターの「悪」が、さほど魅力的には描かれていなかったこと。なにしろ、ダースベイダーがどんなに悪魔的な美しさと残虐さを湛えているかが、僕のこの映画への最大の期待だったのだから。

フィギュアをたくさん持っているキャラクター好きなら、アナキンの顔がダースベイダーの黒い仮面によって覆われた瞬間にエクスタシーを感じたかもしれない。数々の戦闘シーンではなく、確かにその静かな瞬間がこの映画のクライマックスには違いない(ネタバレだけど、「3」がダースベイダー誕生をテーマにしてることはみんな知ってるだろうから、許して)。

でも、アナキンがダークサイドに堕ちるまでの苦悩の道筋が、見る者を納得させるようには描かれていないと感じた。愛する者を救うためにアナキンは自ら「悪」と化すのだが、予知夢を見たというだけならば、それを避けるための選択肢はまだまだありそうだ。

ダークサイドに堕ちてからのアナキンの悪逆非道ぶりも徹底していない。幼い観客も多いことだから当然の配慮とはいえ、ジェダイ聖堂での子どもの虐殺もミディアム・ショットであっさりと処理し、黒いマントに身を包んだアナキンの暗い瞳に悪行を象徴させている。ファンタジーに単純な善悪二元論を超えた複雑さを持ち込もうとした構想が、そもそも無理だったのかも。

1978年、『スター・ウォーズ』第1作を見たのは、今はない有楽町の日劇だった。冒頭、広大な銀河宇宙のなかで、解説(あらすじ)が空間手前から奥へと移動していくのは6作を通して変わらない作り方だけど、あらすじが終わると、画面隅から宇宙船が腹を見せて現れる(観客は宇宙船を見上げるかたちになる)。宇宙船の船体と見えたものがそのほんの一部にすぎなくて、とてつもなく巨大でリアルな宇宙船が頭上をゆっくり通り過ぎる。あのときの興奮が、結局、『スター・ウォーズ』のすべてだったような気がする。

お話は単純で、『2001年 宇宙の旅』や『惑星ソラリス』に比べようもなかったけど、冒頭のシーンやCGを使った宇宙船の戦闘シーンは確かに新しい映画の時代を実感させた。それを「ルーカス-スピルバーグの時代」と言うなら、僕はやがてその時代があまり好きではないことに気づくことになった。


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Comments

『スター・ウォーズ』がブッシュ批判、アメリカ批判であるというのは
わたし自身、映画を見ているときから「あぁきっとそういう説が出るだろうなぁ」と思っていました。
でも「銀河帝国内部の宗教戦争」という解釈はとても面白いですね。
SW初心者なもので、「ジェダイって結局なんなのよ?」と(こっそり)思っていましたが、
「宗教のようなもの」であり、「予言」とは「キリスト教にとっての旧約聖書」で、
「ヨーダは法王」とか言われるとわかりやすい。妙に納得してしまいました。

Posted by: manamizw | July 25, 2005 at 01:51 AM

>manamizwさま

TB&コメントありがとうございます。

解釈なんてものでなく、単なるこじつけというか、遊びです。

manamizwさんはユアン・マクレガーのファンだったんですか。『猟人日記』、SWとは全く違った役どころで良かったですね。

Posted by: | July 25, 2005 at 11:59 PM

>、とてつもなく巨大でリアルな宇宙船が頭上をゆっくり通り過ぎる。
あのときの興奮が、結局、『スター・ウォーズ』のすべてだったような気がする。

それを言っちゃあ、お終いよと思いつつ、思わず同感です。
自分が正しい正しくないはさておき、この作品を観て、
今の若い観客たちは本当に映画的興奮を自ら感じているのでしょうか?
ちょいと、ウームです。

Posted by: nikidasu | July 26, 2005 at 01:47 AM

>nikidasuさま

コメントありがとうございます。

ほんと、ジジイの繰り言みたいですけど(そうには違いない)、好きなように書くしかないですね。

若い人ばかりのブログの世界にもnikidasuさんのような同志(と勝手に呼ばせてもらいます)がいると思うと心強いです。

Posted by: | July 28, 2005 at 11:13 AM

感想にいちいち頷きながら、全く同感!と思わずコメントしてしまいした。
アナキンがダークに落ちる過程の描写が不足だった事が残念でならないのです。理由が個人的な感情から発しているのは、よく分かったのですが。演出の問題かも知れません。
そして駄目押しはパドメが亡くなったと聞かされた時の雄たけび…。がっくり。
他は、大人になるとどうして解説したくなるのだろう…と物悲しくもなりました。
最初に観たのは小学生の時でしたから。
>宇宙船の船体と見えたものがそのほんの一部にすぎなくて、とてつもなく巨大でリアルな宇宙船が頭上をゆっくり通り過ぎる。あのときの興奮が、結局、『スター・ウォーズ』のすべてだったような気がする。
そういう小学生だったので。

Posted by: 観丸屋 | July 30, 2005 at 12:13 AM

>観丸屋さま

コメントありがとうございます。

この映画、未来都市の風景では、観丸屋さんがブログで触れられている『ブレードランナー』のイメージをずいぶん借用していましたね。

Posted by: | August 02, 2005 at 01:09 AM

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