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July 13, 2005

マレーシア・ポップスの2人

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コタ・キナバル最大のショッピング・センター「センター・ポイント」のミュージック・ショップで店員の若い女性に、「いま、いちばん人気ある歌手は?」と聞いたら、シティ・ヌールハリザ(Siti Nurhaliza)のCDを出してきてくれた。するともう一人が、違う、こっちよ、という感じで微笑みながらミーシャ・オマール(Misha Omar)のCDを指さした。

シティ・ヌールハリザの名前は知ってる。HMVやヴァージン・メガストアのアジア・ポップスのコーナーに行くと、「マレーシアの歌姫」というキャッチでシティのCDが必ず置いてある。いつか聴いてみようと思いながら、そのままになっていた。

彼女らがリコメンドしてくれた2枚、シティの「プラサスティ・スニ(Prasasti Seni)」(右)とミーシャの「アクサラ(Aksara)」を買った。ミーシャを買ったのは、ジャケットの彼女にくらくらきた気味もあることは否定できない。シティも清純派の美人で、アラブ・ポップスの歌手は超と言っていいくらいの美女揃いだけど、マレーシア・ポップスの歌手もそれに引けをとらない。

音を聴いての第一印象は、うーん、マレーシア・ポップスは奥が深いなあ、という感じ。日本のポップスはアジア・ポップスのなかでも欧米ポップスの影響が強い音楽だと思うけど、マレーシア・ポップスはそれとは明らかに別の音楽。

でもアジア・ポップス共通の要素はたくさんあって、「日本の歌謡曲みたい」(わがカミサンの感想)だったり、「広東語ポップスみたい」(香港に暮らしたことのある娘の感想)だったり、「いや、アラブ・ポップスの匂いもするぞ」(これはアラブ・ポップスにはまっている僕の感想)だったり、いろんな要素が微妙に入り交じっているように感ずる。そしてそれらを孕みつつ、ほかでもないマレーシア独自のポップスになっている。哀愁あるメロディー。スローな曲と、独特のリズムを持つダンサブルな曲と。

シティ・ヌールハリザのCDは何枚も輸入されているし、ファンも多い。サイト「MELAYU BEAT」などによると、シティはもともとアイドル歌手としてデビューしたが、マレーシア伝統歌謡のアルバム「チンダイ」を出して爆発的にヒットし、以後、ポップスと伝統歌謡と両方のアルバムを出している。

僕の買った「プラサスティ・スニ」(2004)はポップス・アルバムに分類されるているようだが、日本で言えばポップスというより歌謡曲に近い印象を受けた。1950年代の日本の歌謡曲のような懐かしさを感じさせる歌があるかと思えば、70年代フォークふうあり、かと思うとダンサブルな曲があるといった、おもちゃ箱をひっくり返したようなCD。

なかでも7曲目「Lagu rindu」で、アジア人好み(?)のマイナーなメロディーにコブシを利かせ、日本の「リズム歌謡」をもっとダンサブルにしたような曲から、一転して8曲目「Sakti」で竹笛とともにゆったりと東洋的なバラードを歌い上げるあたりに惹かれた。「Kemhalikan Indah」も、中島みゆきが歌ったらおじさんは泣いてしまいそう。

ミーシャ・オマールは、シティと同じように高く澄んだ声に特徴のある歌手だけど、アイドルらしく素直な声のシティよりドスがきいてて、喉を絞ってしゃがれ声を出してみたり、頻繁にコブシを回してみせる。それでいて、シティのCDが全体として歌謡曲といいたくなるのに対して、ミーシャの「アクサラ」(2005)はポップスのつくり。(日本の)ニューミュージックふうな曲と、体が自然に動き出すダンサブルな曲が組み合わされている。

「Riwayat Cinta」は、印象的なマイナーのフレーズが繰り返されるしっとりしたバラード。いい曲です。「Tak Ingin Lagi」はラップが入ったヒップホップ。声が艶っぽい。アラブ・ポップスの匂いを感ずるのは僕だけだろうか。「Hati Keliru」もダンサブルな心地よい曲(ダンドゥット?)で、意味は分からないけど「チャリチャリ」とオノマトペみたいな言葉が繰り返される。「Pulangkan」は男性歌手とのデュエットで、昔聴いた高橋真梨子と来生たかおの歌を思い出した。

伝統的なマレーシア歌謡は、多民族国家にふさわしく色んな民族の伝統的なメロディーとリズムが入り組んでいるようだ。もともとマレー半島に住んでいたマレー系民族だけでなく、華僑が多いから中国的な要素もあるし、インドネシアと共通するダンドゥット(ダンサブルな音楽。インドネシア・ポップスのCDを何枚か持っていて、一時期よく聴いた)もある。マレーシアはイスラム国家で、宗教儀式に音楽はつきものだから、かつてイスラム商人がアラブ音楽も持ってきたにちがいなく、僕がアラブ・ポップスの香りを感じたのもあながち間違いではない気もする。

そんな土壌の上に成り立ったマレーシア・ポップスは、日本の歌謡曲やポップスにくらべると、ずっとバラエティーに富んでいる。

シティとミーシャの、どっちをよく聴くことになるか。時間がたってみないと分からないけど、今のところミーシャを聴くことが多い。

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