ケアリイ・レイシェルとハパ
梅雨が明けると、朝聴く音楽も気分を変えたくなる。以前はボブ・マーリィのライブを大音量でかけると夏が来たなって感じになったけど、この歳になると悲しいかなボブ・マーリィに対抗するだけのエネルギーがこちらにない。ここ数年は、これも定番だけどハワイアンを聴くようになった。
ハワイアン・ミュージック、なかでも1990年代から大きなムーブメントになったハワイアン・コンテンポラリーを初めて聴いたのは、ケアリイ・レイシェル(Keali'i Reichel)が歌うトラディショナルの名曲「アカカ・フォールズ('Akaka Falls)」だった。スラック・ギターの弛んだ柔らかい音がゆったりしたリズムで入り、ケアリーの高く澄んだ声が美しいメロディーを歌い始めると、ハワイの心地よい風の記憶が五感を刺激して、蒸し暑い東京にいてもハワイ島(僕の場合)のホテルにいるような気分になる。
今年は『ケアラオカマイレ(Ke'alaokamaile)』(左)を聴いている。去年、久しぶりに出た新譜で、買おうかどうか迷っているうちに夏が終わってしまい、今年の6月に買って梅雨が明けるまで封を切らずにおいた。「ケアラオカマイレ」とは「マイレ(祖母の名)の薫りよ永遠に」といった意味らしく、祖母に捧げられている。
アルバムは潮騒の音とともに始まる。穏やかな声のケアリイの語り(英語)と祖母の家系を讃えるチャント(ハワイイ語。池澤夏樹に習ってHawaiiを発音通りに記す)。ケアリイが10代のころハワイイ文化に興味を持って言葉を習い、おばあちゃんに話しかけたら、それまで英語しか知らないと思っていたおばあちゃんがハワイイ語で答えたときの驚きが、ライナーノーツに紹介されている。
チャントが終わると自作の「カ・ノホナ・ピリ・カイ(Ka Nohona Pili Kai)」で、いつものケアリイの快い音楽がはじまる。続いてスティングの「フィールズ・オブ・ゴールド」のカバー(英語)。美しいラブソング。恋を語る「黄金色の小麦畑」が、ケアリイが歌うとハワイイの海の光る波のように感じられて素敵だ。5曲目の「ププ・アオ・エワ(Pupu A'o'ewa)」はトラディショナル(日本でもよく知られた曲)で、おばあちゃんに言われて人前で歌った曲だという。
そんなふうにコンテンポラリーとトラディショナルとカバー曲が入り交じっている。ケアリイの祖母と自らの青春をめぐるアルバムといった感じ。ゆったりと明るく心地よい音楽でありながら精神性を感じさせる。
ケアリイ・レイシェルとともに好きなのがハパ(HAPA)。ハワイイ人のケリイ・カネアリイと白人のバリー・フラナガンのデュオで、僕が持っているのはハワイイ編集のベスト盤『COLLECTION HAPA』。
バリーの見事なスラック・ギターと、ケリイの柔らかく甘い歌声の組み合わせがとてもいい。1曲目の「Lei Pikake」を聴くと、身も心も瞬時にハワイイに飛んでしまう。東京の時間ではなく、ハワイの時間に入り込んでしまう。これはバリーの曲。彼はアメリカ本土出身で、ハワイイ音楽に傾倒してハワイイに来た。白人なのにハワイアン・ミュージックの素晴らしい曲と詩をつくる。
今年もケアリイ・レイシェルとハパで、何とか熱い夏をやりすごそう。
と、ここまで書いてネットで調べたら、ケリイとバリーのハパは解散し、バリーと別のハワイイ人歌手が新しいハパを結成したらしい。なんと、いま来日していて、7月24日に三鷹市公会堂でコンサートがある。うーん、予定が入ってるんだけどな、行きたい。
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