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June 12, 2005

ピナ・バウシュの反復

ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団を初めて見た(6月11日・新宿文化センター)。僕の信頼する何人かの書き手が彼女の舞踊について書いているのを読んでいたし、テレビで短時間だったけど見たこともある。アルモドバルの映画『トーク・トゥー・ハー』にも出ていた。それでも足が向かなかったのは、本と映画とジャズで(時間もお金も)手一杯だったし、前衛的な舞踊というのは退屈じゃないかと思っていたから。

ところが、これが全然ちがった。前半60分、後半70分。後半の出だしだけは、ソロのダンサーがイマイチに感じられて少々眠くなったけれど、最後まで飽きなかった。

出し物の「Nefes(呼気)」はイスタンブールでつくられたものらしく、幕が開くと公共浴場の場面。男たちが次々にバスタオル一枚で歩いてきては横たわり、別の男が横たわる男をマッサージする。と、今度はマッサージしていた男が横になり、横たわっていた男たちが立ち上がってマッサージをする。やがてドレスの女たちが出てきて、横たわる男たちの上で魅力的な長い髪をくしけずる動作をする。そんな繰り返しのなかにソロで、カップルで、集団でのダンスが挟まれる。音楽はビートの利いたトランス系ロックやインド音楽、アラブ音楽なんか。

ある動作が繰り返される。反復、ということに意味がありそうだ。反復は、ある単調さを生む。また反復は感情を高揚させず、逆にクールダウンさせる。時には、強制されているという感覚をもたらす。そんな反復があるからこそ、ソロやカップルでのダンスの激しさ、感情の爆発が際立つ。

ピナ・バウシュの舞踊は「コンテンポラリー・ダンス」というジャンルに入るのだろうけど、特にソロ・ダンサーの動きは西洋の動きではない。今回の「Nefes」ではインドのダンサーがゲストに迎えられているせいもあるのだろう、濃厚にアジア的。西欧のダンスは背骨がしゃんとしているけれど、ピナ・バウシュの踊りは背骨がないみたいに上半身と腕がくしゃくしゃになって自在に動く。

イブニング・ドレスに身を包んだゲストのインド人ダンサー、それにインドネシアと韓国のダンサー(いずれも女性)の踊りは、なんとも官能的。韓国のブルージーな歌でソロを踊った男性ダンサーもすごかった。

そんなふうに、いろんな場面設定とダンスが脈絡もなく進行していくのだが、特に物語的な意味はない。そこに無理に意味を求めようとすると、「難解」ということになってしまう。ダンスと、時にはコントふうな芝居を楽しみながら、そこから喚起される感情に忠実に従っていけばいいのだろう。

舞台の奥に水たまりらしきものがあった。それまでその周囲で踊っていたダンサーが、ある時、そのなかに入っていく。水しぶきがあがる。ダンサーがはね上げた飛沫に、うわぁ、やっぱり本物の水だったんだと驚く。と、次の瞬間、天井から滝のように水が落ちてくる。照明に輝く飛沫と、滝のなかで踊るダンサーの鮮烈さ!

もう一つ印象的だったのはフィナーレ。トム・ウェイツの音楽に合わせて、舞台前面では男性ダンサーたちが横向きに座り、足を組み換える動作を反復しながら行進してゆく。水たまりの奥では逆方向から女性ダンサーたちが、やはり横になっていくつかの動作を反復しながら進んでゆく。音楽に合わせて反復される動作が、抑制された官能とでもいったものを醸し出す。余韻の残るエンディングだった。

次に機会があれば、また行こうと思う。

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Comments

私も、ピナ・バウシュの『ネフィス』行きました。
今回は、特に様々な要素のあるダンスだったように思います。
去年は『バンドネオン』タンゴをすごく官能的に踊りました。
今回のフィナーレに近い振り付けなのですが、
タンゴを座りながら踊るのです。
どうして、あんなに官能的な世界を描けるのか・・・
いつも思います。

Posted by: colonita | June 14, 2005 at 12:51 AM

>colonitaさま

コメントありがとうございます。
ピナ・バウシュは初めてでしたが堪能しました。最後の曲はやっぱりトム・ウェイツだったんですね。

Posted by: | June 15, 2005 at 12:45 AM

まずはじめに、すみません。
連続投稿してしまいました。
上の2つは削除していただけますでしょうか?

改めまして、こんばんは。
私も『ネフェス』に行ってきました。
去年の『天地』は未消化な部分が多すぎて
がっかりしてしまい、今年はあまり期待していなかったのですが、良い意味で裏切られ、嬉しさにプルプルしています。
そう、ピナは『難解』ではないと思います。
素直に感じられれば、
楽しめる舞台だと思うのですが、
それが実は一番難しいということでしょうか?
私の周囲では、『ピナは哲学的で難しい』と
敬遠する人が多いのです。


Posted by: papageno | June 21, 2005 at 12:41 AM

>papagenoさま

コメントありがとうございます。
papagenoさんのエントリは、ピナに「魂をぬかれちまった」体験をヴィヴィッドに伝えて面白く拝見しました。初体験の私には男性ダンサーを判別できませんが。

Posted by: | June 21, 2005 at 10:54 AM

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