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June 28, 2005

復刻された『クルドの星』

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四捨五入すれば60になるこの歳になって電車のなかでマンガを読んでいると、ふととがめるような、あきれるような目つきで見られていることがある。無理もない。自分でも他人に対してそうした経験がある。でも、このマンガ、夢中になって途中で止められなかった。

安彦良和『クルドの星(上下)』(チクマ秀版社)が復刻された。

40代以下の世代にとって安彦良和といえば、なんといってもアニメ「機動戦士ガンダム」だろうけど、僕にとってはマンガ『虹色のトロツキー』の作者として鮮烈な印象が残っている。

『虹色のトロツキー』は1990~96年にかけて発表された。大日本帝国がでっちあげた満州国を舞台に、建国大学の学生、日蒙混血のウムボルトを主人公にした叙事マンガ。「五族協和」という偽イデオロギーに殉じようとするウムボルトと、クラブで歌う満州娘(実は共産党系八路軍と通じている)麗花の恋を軸に、満州「建国」、ノモンハン事件から第二次世界大戦へと激動する歴史に翻弄される2人の姿、その夢と挫折が描かれる。

史実が丹念に調べられていて、石原莞爾、辻政信、甘粕正彦ら昭和史の重要な脇役から出口王仁三郎、レオン・トロツキーまでが登場する、色んな意味で「危険な物語」。魅力的な物語がまだまだ続くと思われたのに、安彦はウムボルトに突然の死を与えた。その死は、僕のマンガ体験のなかで大げさにいえば真っ白になった明日のジョーの死以来の衝撃だった。

『クルドの星』(1985~87)は「ガンダム」で圧倒的な人気を誇っていた安彦がマンガを描きはじめての第2作。どちらかといえば神話的物語に題材を取ることが多い安彦が、神話から歴史へと世界を広げることになった最初の作品で、その意味では『虹色のトロツキー』の原型といえる。

『クルドの星』が発表されたのはイラン・イラク戦争が戦われていた最中。今でこそクルドはイラク情勢の鍵をにぎる民族として知られるようになったが、80年代のこの国ではまだほんの一部でしか知られていなかった。僕も、獄中にいたトルコのクルド人監督ユルマズ・ギュネイの映画『路』で、辛うじてクルドの名を知っていた程度。そんな時期に、少年マンガ誌にこの作品を連載した安彦の意気込みがうかがえる。

主人公は『虹色』と同じように、日本人とクルドの混血である少年ジロー。行方の知れない両親を尋ねて、イスタンブールからクルドの地へと足を踏み入れてゆく。その過程でジローはトルコ軍とクルドの反政府ゲリラの戦い、さらにはトルコとソ連の国際政治の裏のドラマに巻き込まれてゆく。更に、クルドやアルメニア人にとっての聖なる山、「ノアの方舟」伝説が残るアララト山と、ネアンデルタール人の絶滅をめぐる古代史の秘密がからむ。もちろん恋もあって、イスタンブールの暴走族の美少女に、母の面影を宿すクルドの娘と、ジローはもてもて。

少年誌に描かれたものだから、からっと明るい冒険マンガ。でも、安彦の大河ロマンをたっぷり楽しめる。政治的な筋もきちっと押さえられていて、いま読んでも(ソ連がなくなっていることを除けば)おかしなところはない。構想があまりに大きすぎて、いろんなことが解決されずに終わってしまうけれど、本業のアニメで死ぬほど忙しいさなかに、これだけの物語を描いた安彦のマンガへの熱い思いが沸々と感じられる。巻末にカラーのイラストレーションがたくさん入っているのも、安彦ファンにはお宝だろう。

このマンガは「レジェンド・アーカイブ」の一冊として刊行された。今後、今は読むことのできない名作を復刻してゆく(とりあえずコミック)という。楽しみだ。水木しげるの貸本版『悪魔くん世紀末大戦』も出ている。

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