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May 20, 2005

『PTU』、クールな香港ノワール

香港警察PTU(機動部隊)のメンバーが、尖沙咀(チムサアチョイ)で深夜の無人の街路を等間隔に隊列を組んでパトロールするショットが何度か繰り返される。だいたい香港映画で、夜のシーンとはいえ、こんなに人も車も少ない路上の映像は珍しいのではないか。そんな静かな街路を、互いに間隔をあけて無言で歩く警察官たち。その距離感(物理的な距離であり、心理的な距離でもある)が、なんだか新しい香港映画を垣間見せてくれたような気がした。

組織犯罪課の刑事が拳銃を紛失してしまい、それを探すという筋立てでPTU、CID(特捜課)、組織犯罪課と、黒社会の対立する2つの組織とが絡みあう。でも、これまでの香港ノワールなら濃い友情と愛の因果関係が錯綜するところを、この映画では肝心のところで映画を支配するのは偶然の出来事だ。

そもそも拳銃紛失の原因にしてからが因果関係と無縁な古典的ギャグ(バナナの皮にすべってころぶ!)だし、ストーリーと関係ない自転車のガキが登場するとなぜか事件が起こり、冒頭でPTUの隊員が話題にしていた強盗団が偶然に居合わせることによって、クライマックスの敵味方入り乱れての銃撃戦が始まる。

そんなクールな感触が、香港ノワールの新しい展開を予感させる。『男たちの挽歌』を引き合いに出すまでもなく、香港ノワールはむんむんと濃い、湿度も温度も桁外れに高い映画だった。『インファナル・アフェア』3部作がそんな香港ノワールの成熟だとすれば、この映画は香港ノワールが新しい段階に入りつつある兆しなのかもしれない。

僕はこの映画の監督、ジョニー・トーの作品を見たことはないけど、大泣かせのノワールを撮るかと思えば、ラブコメや残虐ホラーも撮るといった、サービス精神満点の香港の職人らしい。コメディー・タッチはこの映画でもそこここに見られるけど、それがコメディーにならずに、因果関係をズラす役割を果たしてクールなノワールになるところが面白かった。

残念だったのは、夜がふけて始まり夜明けに終わる一晩の物語なのに、深夜の香港がさほど魅力的に撮られていなかったこと。意図的なのか、照明の設計の失敗か、ある場面が露出オーバーで飛んでいるかと思うと、ある場面は露出不足で白みがかっている。『インファナル・アフェア』の闇の濃さに及ばない。

拳銃を紛失する警官になるラム・シューが、ちょっと嵐山光三郎に似た風貌で、暴力性と滑稽と悲しみの入り混じった肉体がいいね。

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