クレイジー・ケン・バンド賛江
クレイジー・ケン・バンド(CKB)の「タイガー&ドラゴン」は3年前の曲だけど、テレビドラマのテーマソングになったせいだろう、チャート入りしている(オリコン・シングルランキング17位、5月23日)。R&B歌謡というか、明らかに和田アキ子を意識した曲。演歌にR&Bのフレイバーを利かせた典型的な60年代和製ポップスのつくりで、「一歩間違えばとんでもなくダサい曲になる寸前で、ちゃんとカッコ良くまとまっている」(近田春夫)。
横須賀で、男がかつて恋人か仲間だったらしい人間を呼びだしている。「♪トンネル抜ければ 海が見えるから そのままドン突きの 三笠公園で」、「ダサいスカジャン」着て、そいつを待っている。なにやら秘密の話があるらしい。スカジャンの背には、虎と龍が描かれているのだろう。「♪ドス黒く淀んだ 横須賀の海に 浮かぶ月みたいな 電気くらげよ」というイメージがすごい。
近田春夫は『週刊文春』のコラム(5月26日号)で、「これをずーっと男同士の話だと思っていた」と書いている。でもよく歌詞を読むと、男とも女とも判断がつかない、とも。僕は逆にずーっと男と女の話だと思っていた。「貸した金」もからんで別れたが、男は女に「本当のこと」を話さなければ、自分の気持ちに決着をつけられない。その待っている男の苦い思いが歌のテーマ、と思う。クドカンのドラマは見ていないけど、歌詞と関係あるんだろうか?
CKBを初めて聴いたのはアキ・カウリスマキの『過去のない男』だった。フィンランド映画にいきなり日本語の歌謡曲が流れてきて、ブッとんだ。
彼らの歌は「昭和歌謡」を再生させたと言われるけど、僕らみたいなジジイは、ガキの頃から耳になじんだ歌謡曲や和製ポップス、欧米のポップス、ソウル、ロック、ジャズ、さらにはラップなんかの音がミックスされて、どの歌にもデジャヴを感じる。その懐かしさと、ある種の批評性(時にパロディになるという意味で)が絶妙にブレンドされているのがCKB の面白さだろう。
僕の愛聴するCKBベスト5は--。
「長者町ブルース」
CKBファンなら異論ない名曲。「伊勢佐木町ブルース」のすぐ隣、横浜伊勢佐木町より格段に妖しい歓楽街のご当地ソング。国籍不明のダンサーが身をくねらせる。片言で「タンシヌン・サランヘ」とつぶやく。雑居ビルが「宇宙ステーション」のようにに見える、「♪ダークサイド・ヨコハマ 地獄にいちばん近いヘヴン」。アップビートのサックスと、重い歌詞を軽ーく歌う横山剣の歌いっぷりがたまらない。
「夜のヴィブラート」
同棲していた男が、行きつけの安スナックのママに惚れて家に帰らない。捨てられた女が男を探して雨に濡れ、スナックのドアの前で漏れてくる男のカラオケを聞いているという設定の曲。横山剣が捨てられた女のパートを、バンドの紅一点、菅原愛子がスナック・ママのパートを歌い、男のパートはスモーキー・テツニのラップ(追記・これは誤り。コメント欄参照)という変形デュエット。3人の主観が交互に入れ替わる複雑精妙なリズム歌謡。「♪あなたは気づかないのね あたしの心の渇きなんて」「♪うっせー切っとこダサい着めろ オレぁ行っちゃうよ今夜は」「街が溶けて腐ってゆくわ 崩れてしまえ 消えてしまえ この酸性の雨に溶けてしまえ」。笑えて、泣ける。
「葉山ツイスト」
イントロは007のテーマソング。「ツイスト・パーティー」とか「バイタリス」「ボウリング」「エレキ」と、もろ60年代のアイテムが頻出し、「♪昭和にワープ」と決めゼリフ。ノーテンキに明るい歌だけど、「♪慶応ボーイのインパラなんかにゃ 負けはしないぜ」と、お坊ちゃんの湘南とは一線を画すのがCKB。
「7時77分」
CKBの歌には淋しさを感じさせる曲も多い。これもその1曲。「♪ロンリネス 君のいない サマー・ホリデー」と入って、「♪蝉しぐれ ひこうき雲 街角に人気はなく」と続く。なんだか高校生の頃の自分を思いだしてしまう青春歌謡。
「大電気菩薩峠」
インストルメンタル。CKBは歌だけでなくバンドとしてもすごい。昭和歌謡でもR&Bでもロックでも、時にはジャズでも、ジャンル特有の微妙なノリをぴたっと決める。この曲はトランス系(?)とでもいうのかな、スローなロック。僕は一時、極楽温泉というグループが好きでライブに通ったけど(現在は活動休止)、長く糸を引くギターの音色に聴き入っていると、ぬるい温泉に長時間浸かっているような気持ちよさが共通している。
CKBは横浜-横須賀の湘南ラインから出てきたグループだが、同じ湘南でもサザンとはテイストがずいぶん違う。サザンの歌がアメリカ西海岸ふうな、おしゃれな湘南だとすると、CKBの歌はもっと猥雑でいかがわしく、やばい。
短絡的に言ってしまえば、CKBの湘南があぶり出すのは、西海岸ふうな湘南イメージを突き抜けたアメリカ、つまり在日米軍の存在ではないか。神奈川県は横須賀、横浜、座間、相模原、藤沢、逗子など、沖縄が返還される以前は本土で飛び抜けて米軍基地・施設の集中した地域だった。昭和20年代、基地の周辺には歓楽街が出来、「風俗問題」が起きた。
横須賀の「ドブ板通り」が消えたように、やがて米軍基地の存在が相対的に薄くなり、目に見えない形になるにつれて、おしゃれな湘南イメージが現れてくる。そこに戦前からの中産階級の住宅地という歴史が重ねられて、「太陽族」が出現し、「狂った果実」のような映画がつくられた。
サザンの歌は、そういう湘南イメージの上に立っているように感じられる。おしゃれな「湘南イメージ」は在日米軍(アメリカ)の存在なしには成り立たなかったが、しかし軍隊とそれが醸し出す危うい空気が残っていては成り立たない。それは消され、太平洋をはさんで西海岸やノースショアと直接つながっているイメージに生まれかわらなければならない。
CKBの湘南、横浜-横須賀は、その猥雑な風景を通して、消えてほしいアメリカ、在日米軍の影を呼び出してしまったのではないか。深読みであることは分かっているけど、CKBの歌を聴くたびにそんなふうに思う。
Comments
「夜のヴィブラート」のラップはライムスターのマミーDと宇多丸デスヨ! 宇多丸さんはあのバース(♪シケたツラしてんじゃねえよ…)を書くためにわざわざホテルに自主カンヅメになって全裸で歌詞書いたそうデスヨ。そんなん素敵やないですか?
Posted by: rounge | June 07, 2005 12:19 AM
>roungeさま
そうだったんですか。他の曲で、スモーキー・テツニがラップとあったので、そこから類推してしまいました。それで曲が終わった後、横山剣の「ライムスターの」云々というセリフが入ってるんですね。ご指摘ありがとうございます。
先日、エミネムの「8mile」を見て、彼の詞の凄さがどこから来ているか改めて分かった気がしましたが、宇多丸さんの詞も、ほんとリアリティーありますね。
Posted by: 雄 | June 07, 2005 01:03 PM
こんにちは。
「ミュージカルバトン」という
ものが回ってきました。
よければ雄さまに受け取っていただきたいです。
めんどくさければスルーしちゃって全然OKですので。
詳細はマイブログにお越しください。
あ、ちなみにうちの今のBGMはCKBだったりします。
Posted by: manamizw | June 20, 2005 11:15 PM