三条木屋町の渡辺貞夫
仕事で京都へ来ている。京都へ来るといつも寄る三条木屋町の店でうまい肴を食していい気分になり、ふらふら歩いていたら、「渡辺貞夫カルテット2005」という手書きの看板が目に飛び込んできた。ここ10年、ホールやブルーノートのような広い空間でナベサダを聴いたことはあっても、ライブハウスで聴いたことはない。RAGというその店に、誘われるように入ってしまった。
ちょうど1stセットが始まったばかりらしく、ドアを開けたとたん、ごりごりのバップの音が聞こえてきた。あ、ナベサダの音だ、と嬉しくなる。立ち見でよければとステージの脇に案内され、ほんの数メートルの距離でナベサダを聴く至福。
1stセットはハードバップふうなナンバーが多かった。フルートの幻想的なイントロで始まり、アルトに持ちかえて熱いアドリブを披露した曲が圧巻。
2ndセットは自作の曲を中心に。神戸震災後に当地のコンサートでつくったという美しいバラード「I'm With You」。次に「モーニング・アイランド」の頃を思わせる軽快で気持ちいいナンバー。アフリカの歌手、セザリア・エヴォラに触発されたというアフリカン・リズムの「カポ・ヴェルデ・アモーレ」(この日の朝、僕はセザリアを聴いていたのだ!)。サンバを続けて2曲。4人のメンバーの歌とチャーリー・パーカーを引用したクロージング。ピアノとデュオでアンコールに応えた「私のすべての愛を」。
こんな間近で渡辺貞夫を聴けるなんて、京都はいい。ホールでやれば千人単位で客が入るのに、小さなライブハウスで力のこもった演奏を聞かせるナベサダの姿勢も素敵だ。
初めて渡辺貞夫を生で聴いたのは1967年、大塚のライブハウス、ジャズギャラリー8だった。菊池雅章(p)、稲葉国光(b)、渡辺文男(ds)という、いま考えるとものすごいメンバーだったように記憶する。
まだアメリカから帰ってきて間もなく、彼が日本に紹介したボサノバを中心に、渡辺貞夫がそこから出発したバップ・ナンバーがあり、合間にビートルズの「イェスタデイ」をさらりと吹いて泣かせた。休憩時間にアート・ペッパーがかかり、「こんなすごい曲やられたら困るよなあ」と笑ってつぶやきながら2ndセットを吹きはじめた姿が忘れられない。
その後、何年かに1度は聴いているけれど、艶やかで温かな音色は変わらない。自分のアドリブが終わると、シャツの袖をまくった右手でアルトを支え、左手をポケットに突っこんでリズムを取りながら、孫の世代にあたる若いプレイヤーの演奏に耳を傾けインスパイアする姿も変わらない。
納浩一の切れのいいベースは相変わらずだし、初めて聴く小野塚晃のノリのいいピアノには興奮する。マイルス・デイビスやアート・ブレイキーがそうだったように、渡辺貞夫も次代を背負う若手を発掘し、次々にメンバーに起用してきた(山下洋輔もここの出身だし、世界的ミュージシャンになったリチャード・ボナを初めて聴いたのもこのグループだった)。半世紀、常にジャズ・シーンの最前線にいる貞夫さんに脱帽。
ジャズ・ファンとして、渡辺貞夫と同時代に生きる幸せを噛みしめた夜だった。
Comments
雄さん、こんばんは。
素敵な時間をお過ごしだったんですね。
私、ナベサダ聴いたのは10年位前です。
お台場が出来たばかりの頃、ポンキッキーズの野外コンサートにて。しなやかで温かな音色は最初の一音で「おおっ、さすがナベサダ」と、鳥肌ものの感動でした。
Posted by: juddymama | April 23, 2005 10:14 PM
>juddymamaさま
ナベサダの音は、ほんとに最初の1音で分かりますよね。ジャズは音色だ、とつくづく思います。あの夜、CDを買ってサインしてもらい、毎日のように聴いてます。
Posted by: 雄 | April 24, 2005 09:42 PM