『ユリイカ』の「ブログ作法」
雑誌『ユリイカ』(4月号)が「ブログ作法」という特集を組んでいる。「激突! はてな頂上作戦」とタイトルされた座談会を中心に、内田樹、上野俊哉、北田暁大ら10人のエッセー、それに「ブログ・ガイド100@2005」という構成。
大学教師の立場を生かして学生に運営を任せ、ひたすらテキストを書きつづける「日本最弱のブロガー」内田樹(でもそこから本が生まれた)。4年半にわたってウェブページとブログをやって300万ヒットを記録し、「ひたすらウケるネタを考え、生活を犠牲にしてページの更新を繰り返した。一日休めば客が半分に減ってしまうのではないかと怯える芸人のようだった。……やがて力尽きた」というスズキトモユ。これらは体験系エッセー。
ネット空間に行きかう「わたし」の意味を、主体と環境の双方向からスケッチしてみせる上野俊哉+泉政文。2ちゃんねるや「炎上」から「ブログ作法」について論ずる北田暁大。こちらは論考系エッセー。
ブログをいろんな角度から考えていて、それぞれに面白い。でも、いちばん楽しめ、同時にヒントをもらえたのは、仲俣暁生、鈴木謙介、吉田アミ、栗原裕一郎による座談会だった。
「はてな頂上作戦」という題からもわかるように、4人とも「はてなダイアリー」でブログを運営しているから、話題は自然に「はてな」内部のものが多くなる(この特集全体が「はてな」に寄っている)。「はてなアンテナ」を使ってはいるが、ブログ自体は「ココログ」にいる僕には、よくわからない話題もある。4人のなかでは、仲俣暁生のブログは頻繁に訪問する。文学系の話題が豊富だし、「I LOVE TOKYO」キャンペーンのいかがわしさについてのエントリーなど、刺激的で読ませるテーマが多い。鈴木謙介のブログを覗いたことはないが、東浩紀のメルマガ座談会での発言は読んでいる。
そんな4人のディープなブロガーの話をエンタテインメントとして楽しんだけど、初心者オヤジ・ブロガーである僕には、文章作法についての部分が参考になった。というのは、ブログを始めて9カ月、書けば書くほど自分の文章がどうしようもなく活字文化のなかにあって、ネット空間になじまないと感じているからだ。
文章をどう入力するかという話で、4人のうち3人は下書きなしで「はてな」の入力フォームに直接書いている。
吉田 そのまま書くと消えちゃったりするじゃないですか。
鈴木 間違えてバックスペースとか押しちゃって、慌てて戻すんだけど「ああ! 中身ねえ!」って(笑)
そうなのだ! 僕もかなり長い文章を書いて、さあアップしようというところで操作を間違えて消してしまったことが2度あり、それからは短い文章以外はワープロで下書きするようになった。でも3人は同じような体験をしながら、下書きなしで書いている。
栗原 エディタで書けばいいじゃないですか(笑)
仲俣 ……エディダで書くと、なんだか仕事用の原稿を書くのと同じ姿勢になっちゃって、丁寧に推敲しはじめたりしちゃうでしょ。……むしろ、しゃべってるのに近いかもしれないね。
吉田 ……まあ、そこがオモシロイところでもあるし、危険なところでもありますが。私はその迂闊さがセクシーだと思っているのでバカを晒すためにもバンバン書いて、書くハードルを低く見積もっていく傾向にあります。
鈴木 ……入力フォームに思考する順番のままに書いていく、という感覚が重要なんじゃないかと。
なるほどね。それが彼らの文章や、これがブログの文体なんだなと感ずるいくつかのサイトの、なんというかライブ感を生んでいるのだと思う。
まあ、30年以上も雑誌や単行本にかかわってきたから、自分の書く文章が活字世界に属しているのは当然といえば当然の話。でも、自分の書く文章の匂いにはいいかげん嫌気がさしていたし、飽きもきていた。どうせブログをやるなら、自分のスタイル(そんなものがあるとして)を変えてみたいという密かな望みはあった。でも、書けば書くほど、それは無理なことだと認識せざるをえない今日このごろ。
吉田 だいたいみんな最初、自意識過剰になるんだけど、紆余曲折あって最終的に、自分の好きなようにやればいいじゃないか、というところに落ち着いて、そして更新は続く、という(笑)。
「好きなようにやればいいじゃないか」という場所に行きつくまで、もう少しじたばたしてみよう。
Comments
『ユリイカ』久しぶりに買ってみようかなと思いました。
私は、ある文学系というか美術系のメーリングリスト
の会員なのですが、そこではなかなか発言みたいな事ってできないのです。それを察知した会員の人が今、ブログに移行しようという意見を出しているみたいです。
『ユリイカ』の影響もありそうです。
Posted by: colonita | April 15, 2005 04:07 AM
>colonitaさま
私も久しぶりに『ユリイカ』買ったのですが、活字の小ささに参りました。老眼になってみると、活字の大きさ(小ささ)で自分が相手にされてるのかされてないのか、悲しいかな、すぐ分かります。
メーリングリストに積極的に参加したことありませんが、会員だけの閉じたサークルみたいになって発言しにくくなるのでしょうかね。
Posted by: 雄 | April 16, 2005 10:54 PM
私も発売日に購入して一気に読みました。
おっしゃられているような、ブログ文体について、私も日々試行錯誤を繰り返す身です。私自身も、つい昨日、かなりの長文を途中で全て消してしまい、どこにぶつけたらいいのかわからない怒りに震えました(笑)
実は私も活字世界にいるので、ユリイカで彼らが語っている「ライブ感」をなかなか実践できずにいますが、そろそろブログを始めて1年経とうとしている今、半ば諦めています。あまり無理をするのも本末転倒かな、などと思い至った次第です。
Posted by: [M] | April 19, 2005 09:50 AM
>[M]さま
おっしゃること、よく分かります。結局、自分のタチは変えられないし、ネット空間との齟齬を逆にどう自分なりに生かしていくか、ということなのでしょうか。
でも、時間をかけて書いた文章が一瞬にして消えた瞬間の怒りとも悲しみともつかない感情は、その昔、徹夜して書いた原稿用紙をなくしたときと似ているようで違う感じでした。原稿用紙はひょっとしたら出てくるかも、と一縷の望みを持ったのに、こっちはネット空間の無のなかに吸い込まれてしまったようで。
Posted by: 雄 | April 19, 2005 10:44 PM