イリアーヌ・プレイズ&シングス・ジョビン
ブラジル・ジャズの心地よさと楽しさを堪能した。イリアーヌ・イライアス(p,vo)のライブ(2月15日、ブルーノート東京、1st.セット)。
ブラジル・ジャズというのは、もちろんボサノバをベースにしたジャズ。最新作『ドリーマー』(右上)のヴォーカル+ピアノを中心に、昔の『プレイズ・ジョビン』(右下)のピアノ・カルテットからアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲を数曲。メンバーはルーベンス・デ・ラ・コルテ(g)、マーク・ジョンソン(b)、武石聡(ds)。
ジョビンの曲で短いイントロがあった後、『ドリーマー』から「コール・ミー」「ビーズと指輪」の2曲。いずれもアメリカの古いポップスでバラードだけれど、イリアーヌが歌のパートを終えてピアノを弾きはじめると、とたんにボサノバの香りがしてくるのがうれしい。直前まで仕事をしていて、こわばった自分の体の芯がゆるんでくるのが分かる。
つづけて、ジョビンの名曲「おいしい水」。ヴォーカル抜きでピアノをたっぷり聴かせる。『プレイズ・ジョビン』ではエディ・ゴメス、ジャック・デ・ジョネットと組んでいたせいかバリバリのジャズだったが、ここではライブということもあってか、ノリのいいフレーズとリズム。ボサノバは、アドリブでどんなに熱くなっても、どこか爽やかな風を感じさせるのがいい。もともとトロピカルな熱さを都会の洗練でくるみ、2つの要素を絶妙にブレンドした音楽だから、そのクールさが今の時代の空気に合っているのかも。
そこから『ドリーマー』のヴォーカル+ピアノに戻ってジョビンの「フォトグラフ」、ブラジル音楽の宝庫バイーア地方の作曲家・カイミの「ドラリシ」、古いアメリカのポップス「タンジェリン」を、これもボサノバで。
ボサノバは、あまり複雑でない、でも魅力的なメロディーにたくさんの歌詞をつけて、語るように、ささやくように歌うことが多い。『ドリーマー』(この盤については04年7月3日のブログに書いた)は明らかにダイアナ・クラールを意識したつくりだけど、イリアーヌの歌は、だからクラールよりアストラッド・ジルベルトと比べたくなってしまう。
一世を風靡したジルベルトの「イパネマの娘」の透明な歌声に対して、イリアーヌの唄は低音域で、艶を感じさせる。彼女は若くしてブラジルで名をなし、1980年頃にニューヨークへ渡ったというから、たぶん40代前半だろう。当時のアストラッドは小娘のくせに全てを見てしまったような虚無の雰囲気がよかったが、イリアーヌには穏やかな歳相応の成熟を感じる。
セットの最後は、もう一度ヴォーカル抜きでジョビンの「デサフィナード」。名盤『ゲッツ/ジルベルト』でおなじみの曲。ベースのマーク・ジョンソン、ドラムスの武石聡も燃えた。僕が座ったのは彼女の右後ろ2メートルくらい、ピアノを弾く右手がよく見える席だった。柔らかなタッチは、演奏がどんなに激しくなっても変わらない。その柔らかさが、ボサノバの軽く、はずむような音を生むのだろう。演奏の途中、揺れる金髪からときどきのぞかせる横顔のライン、とくに唇の表情が、なかなか色っぽかった。
アンコールは「ワン・ノート・サンバ」「3月の雨」と、これもジョビンの名曲。ビギナー向けの選曲とはいえ、たっぷり楽しませてくれました。
Comments
雄さん、こんばんは。
やっとイリアーヌのアルバム買いました。すんごく良いですね!
Posted by: juddymama | May 25, 2005 12:02 AM
>juddymamaさま
同感していただけて嬉しいです。僕は彼女のピアノを聴きたいときは『プレイズ・ジョビン』を、歌を聴きたいときは『ドリーマー』をかけます。
Posted by: 雄 | May 25, 2005 10:48 PM