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February 10, 2005

『レイクサイド・マーダーケース』の水中死体

水中の死体というイメージはなんとも映画的で、いろんな作品にしばしば登場する。それが魅力的な女性であればなおさらだ。特にホラー映画やサイコ映画では、ある種の定型にすらなっている。古典的なところでは中川信夫の傑作『東海道四谷怪談』があるし、『リング』もそうだった。最近では『スイミング・プール』が、プールに浮かぶ死体というイメージを巧みに使っていた。

でもここ数年で取りわけ記憶に残っているのはハリソン・フォードとミシェル・ファイファーが共演した『ホワット・ライズ・ビニース』。湖とバスタブという2種類の「水」を使って、水中での殺人や水中を浮遊する死体といった美しく恐ろしい映像を、これでもかとばかり見せてくれた。ま、映画の出来はたいしたことなかったけど。

『レイクサイド・マーダーケース』も冒頭からラストシーンまで、水中の死体というイメージに執拗にこだわっている。そのイメージを核に映画が組み立てられているといってもいいくらい。

冒頭は水中シーンから始まる。カメラが上方へ移動すると、それは大きな水槽で、その上に敷いた透明のアクリル板にモデルが仰向けに横たわっている。彼女を狙って真上から、女性カメラマンがシャッターを切っている。雑誌グラビアかなにかの撮影なのだけれど、できあがった作品は、水をバックに、髪が水中にあるように四方に広がり、目と口を心持ち開けたモデルの顔を正面真上からとらえている。水中の死体を連想させる写真。

女性カメラマンを演ずるのは眞野裕子で、彼女は間もなく自分が撮った写真のような死体になってしまう。傍らでは編集者の役所広司が愛人でもある彼女の撮影を見ていて、ストロボが焚かれるごとに目に痛みを感じて顔をおおう。これもまた、いわば死体から目をそむけることの暗喩になっていることが、後になって分かる。

このあたりのプロローグは、すべてブルーの色調に統一されている。夕闇のなかで捉えられる東京の高層ビルの遠景は、まるで水中都市のようだ。

そこから映画は一転して、湖畔に立つログハウスの別荘での舞台劇のような展開になる。3家族9人の親子と、塾講師(豊川悦司)がエリート進学校を目指して合宿している。柄本明、薬師丸ひろ子らが強張った身振りと口調で芝居をするのに対して、遅れて合宿に参加した役所広司だけがナチュラルな演技を見せて一人だけ浮いているが、これも後に、青山真治監督と役所の確かな計算の上に成り立っていたことが分かる。

やがて招かれざる客、眞野裕子が死体となって発見される。殺された眞野の表情と顔にからみつく髪は、東京で彼女自身が撮っていた写真にそっくりだ。誰が、何のために殺したのか?
 
眞野は白いテーブルクロスにくるまれて湖の底へ沈められることになる。確か『ツインピークス』(映画版)のキャッチに「世界一美しい死体」というのがあったけど、着衣をはがされテーブルクロスにラッピングされた眞野も、ローラ・パーマーの死体に劣らず美しい。水底に眞野の死体を飲みこんだ湖の、油を流したようにねっとりした湖面が、深夜あるいは夜明けとさまざまな光と色彩で映し出される。

最後の部分で、眞野のイメージがもう一度繰り返される。それは水底の彼女の死体という実景ではなく、眞野が空中を浮遊する幻想として映像化されている。この場面で、青い空は明らかに水を、風になびく髪は水の流れに揺らぐそれを表している。

『ホワット・ライズ・ビニース』では、水中を浮遊する死体の映像が繰り返し使われていた。水中の死体という実景は、殺された者の怨念とか、死体が醸し出す恐怖といった感情を観客に抱かせてしまう。この映画に、そうした感情は必要とされていないから、青山監督はそれを避けたかったのだと思う。結局、監督は、この映画で水中の死体という実景を一度も見せずに、その魅惑的なイメージだけを見る者に伝えることに成功した。さすが、というべきか。

不満と言えば、これは映画というより原作(東野圭吾)の責任だと思うが、殺人の動機(?)がいまひとつストンと腑に落ちなかったこと。そして、終わり近くなって教育問題とか子どもの問題とか社会派的な視点が前面に出てくること。そのあたりはさらりとかわして、水中死体という極めて映画的なイメージに見る者を酔わせてエンディングしてほしかった。

薬師丸は最初から最後までキンキンと声を荒げる損な役どころだけれど熱演。役所・薬師丸、柄本・黒田福美、鶴見辰吾・杉田かおるの3組の夫婦が、それぞれの持ち味で楽しませてくれる。でもこの作品では映画初出演らしい、美しい死体となった眞野裕子に拍手を送りたい。

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Comments

本作はギリギリ滑り込むことが出来たんですが、文章に出来るかどうか・・・楽しめたのは言うまでもありませんが。
もし書けたらTBさせていただきます。
※「恋に落ちる確率」も未だパンフが戻ってこないので書けずじまいです・・・

Posted by: [M] | February 16, 2005 07:26 PM

>[M]さま

楽しみにしています。パンフをきちんと買っているのですね。私は1800円に加えてパンフ代にウン百円も払うのが腹立たしくて、よほど充実したものでない限り買わないことが多いです。

Posted by: | February 17, 2005 10:50 PM

自分がもしこの父親の立場だったら・・・と、
想像して考えてしまいました。
水辺独特の空気がスクリーンから伝わってきたなぁという印象があります(笑)

Posted by: chishi | March 03, 2005 10:31 PM

chishiさま

TB&コメント、ありがとうございます。
映画から、その画面の空気を感ずること、ありますよね。それは、たいてい好きな作品です。この映画、青山真治監督のベストとは思いませんが、彼の映像感覚はすごいと思います。

Posted by: | March 04, 2005 07:43 PM

*雄さん、初めまして。

先日はTBをさせて頂き、また、雄さんからもTBを頂き誠に光栄です。

拙ブログはまだ正式に(^^)御披露目して一箇月余の駆け出しブログですが、今後とも宜しくお願い申し上げます。

*********

さて、
拙ブログにも書いておりますが、『レイクサイド~』は僕にとって中々愉楽の118分でした。

>遅れて合宿に参加した役所広司だけがナチュラルな
>演技を見せて一人だけ浮いている…

…役所が水に浮くことはなくとも(^^)、
例えば模擬面接のシークェンスあたりでの、役所の何かはつらつとした浮きっぷりなどもゾクゾクとさせてくれますね…。

―トヨエツ扮する面接官役に志望動機を尋ねられて、「校風……でしょうか」、さらに、トヨエツにもっと明瞭に応える事を求められるも、何か開き直った口ぶりで「分かりません!」などと返すあたりでの役所は矢張り観客をぐぐっと惹き付けてしまっているのでしょう…。

>…役所・薬師丸、柄本・黒田福美、鶴見辰吾・杉田
>かおるの3組の夫婦が、それぞれの持ち味で楽しませ
>てくれる。でもこの作品では映画初出演らしい、美し
>い死体となった眞野裕子に拍手を送りたい。

僕も同感です!

Posted by: ダーリン/Oh-Well | March 25, 2005 04:30 PM

>ダーリン/Oh-Wellさま

コメントありがとうございます。

「太陽がくれた季節」、面白く発展しそうなブログですね。好みの似ているらしい映画ファンとして、楽しみに訪問させていただきます。

Posted by: | March 27, 2005 12:59 AM

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