ベニー・ゴルソンを聴く
ベニー・ゴルソンのライブを聴いて、満ち足りた気分で帰ってきた(1月25日、ブルーノート東京)。
ベニー・ゴルソンといえば、映画『ターミナル』で彼の演奏を耳にしたばかり。その後、何気なくジャズのライブ・スケジュールを眺めていたら、ブルーノート東京に予定が入っているではないか!
ここ数年、新譜が出た記憶もないし、近年はアレンジャーと教育者としての仕事が多いと聞いていたから、ベニー・ゴルソンを生で聴く機会があるとは思っていなかった。今回の来日は、映画出演がきっかけになって実現したのかも(店に映画のチラシがおいてあった)。そうだとしたら、『ターミナル』のアメリカ礼賛はうさんくさいなどと書いたけど(1月18日)、それはそれとして、スピルバーグさまさまだ。
ベニー・ゴルソンで日本人がいちばんなじみ深いのは、彼が作曲した「ファイブ・スポット・アフター・ダーク」だろう。カーティス・フラーのトロンボーンとゴルソンのサキソフォーンが織りなすソフィスティケートされた「ゴルソン・サウンド」の旋律はテレビCMにも使われたから、彼の名前を知らなくとも、音を聴けばたいていの人が、ああ、この曲ね、とうなずく。村上春樹の新作『アフターダーク』でもこの曲をめぐる会話が出てくるし、小説の題名もここから取られている。
僕が聴いた9時半からのセカンド・セットでは、残念ながらこの曲の演奏はなし。でも最初からエンジン全開で、自作の名曲、ヒット曲のオン・パレードだった。アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの演奏でなじみの「アロング・ケイム・ベティ」。同じくジャズ・メッセンジャーズのためにつくった「ブルース・マーチ」。僕はウィントン・ケリーの演奏が好きな「ウィスパー・ノット」。映画にインスパイアされた新曲「ターミナル1」。
極めつけは、クリフォード・ブラウンの死を悼んで作曲した「アイ・リメンバー・クリフォード」。25歳の若さで亡くなったブラウニーのトランペットが聞こえてきそうな切々としたバラード。何百回、何千回と演奏してるにちがいないのに、ベニー・ゴルソンの柔らかく、ハスキーな音色で途切れるとみせて息ながくつづくアドリブは、ブラウニーの死をたったいま知ったみたいな悲しさでその面影を現前させた。わたくし、泣きました。
若いピアノのマイク・ルドンが、とてもいい。ゴルソン節をファンキーに奏でてるかと思うと、チック・コリアふうにバリバリ弾いたりもする。ベース(バスター・ウィリアムス)とドラムス(カール・アレン)はゴルソンと息の合ったベテランだから、ルドンの存在がこのカルテットを懐メロではない今のバンドにしていると思った。
どの曲もテーマ→アドリブ→他のメンバーのアドリブ→テーマとシンプルな構成。1ホーンのカルテットだから、サックスとトロンボーン、あるいはサックスとトランペットを重ねる「ゴルソン・サウンド」は聞かれない。でもアレンジャーとしても名高いゴルソンのこと、それぞれのアドリブ・パートでは節々で指示が出ているらしい。ゴルソンが手でリズムを取りながらピッと指さすと、ピタリとピアノやベースの音が入る。それがまた、気持ちよい。
大満足の夜。翌朝から、ゴルソン、ジャズ・メッセンジャーズ、ゴルソンとフラーのジャズテットのCD を繰り返し聴いている。
Comments
初めてまして。
マイク・ルドンで検索をしたら、こちらのブログにたどり着いた次第です。
私も25日にブルーノートでベニーゴルソンを聴きました。本当に気持ちよく完成度が高すぎて、眠たくなるくらいでした。
1stステージを見たのですが、25日はちょうどゴルソンの誕生日でしたよね?
ブルーノートからケーキが出され、バスター・ウィリアムズとマイク・ルドンが「ハッピーバースデー」を弾きゴルソンがロウソクを吹き消すほほえましい場面があったんですよ。
マイク・ルドンの「To each his own」というアルバムがあります。お奨めのCDです。
彼のHPから購入することが出来ます(試聴可)。ではでは
Posted by: rhodia285 | February 15, 2005 03:47 PM
>rhodia285さま
へえー、25日はゴルソンの誕生日だったんですか。そんなセレモニーがあったとは知りませんでした。
マイク・ルドンのアルバム、教えていただいてありがとうございます。私も一応、HMVや山野楽器で探してみたんですが、見つかりませんでした。楽しみです。
Posted by: 雄 | February 15, 2005 11:26 PM