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December 30, 2004

『恋に落ちる確率』の再構築

世界中の、いや過去も含めこの100年間のあらゆる映画のなかで、いちばん多くつくられたのは男と女のラブストーリーだろう。

『恋に落ちる確率』の原題「RECONSTRUCTION」は「再構成」、あるいは現代思想っぽく訳せば「再構築」。1974年生まれのクリストファー・ボー監督の長編第1作は、映画のもっともありふれたテーマであり19世紀末に映画が発明されて以来無数につくられることでパターン化し、通俗化した男と女の出会い、恋、別れを「再構築」しようという意欲にあふれている。

コペンハーゲンのバーで男と女が出会う。写真家の男と、小説家の夫と一緒にこの町に来た女。しばらくすると映画は近過去に戻り、実は男と女が駅のホームで奇術師のパフォーマンスを眺めていて視線を交わし(恋のマジックにかかり)、男は恋人を置き去りにして女を追いかけてバーに来たのだと分かる。「一緒にローマに行こう」と、男は女にいきなり言う。

マジックにかかった男に奇妙なことが起こる。アパートへ戻ると、自分の部屋があるべきところにドアがない。家主を訪ねると、あんたなんか知らないと追い出されてしまう。友人も、男を知り合いでも何でもないと言う。恋人からさえ、あんたは誰? とけげんな顔をされる。住み慣れたコペンハーゲンの街で、男はいきなり異邦人になってしまう。

そんなふうに映画は時制をバラバラにし、日常の因果関係もバラバラにしながら、2人の恋を追いかける。その恋がいつの間にか現実なのか、女の夫である小説家が書いている小説のなかの出来事なのかの区別もつかなくなる。繰り返される同じシーンの意味合いが、そこへいたる近過去が語られることで少しずつズレてくる。男が墜落するシルエットのイメージ・ショットが繰り返し挿入される。

だから窓からの逆光や北欧の室内装飾など、白を基調にした粒子の粗い画面のなかで語られる2人の恋は、どこか夢幻的な色合いを帯びてくる。夢幻の世界から日常にもどると、男は恋人と、女は夫である小説家と、2つの三角関係が軋みをたてる。

その夢幻と日常が必ずしもうまく接続されてないという気はするけれど、両者をつないでいるのがコペンハーゲンの風景。人影の薄い、落ち着いた、でも寂しそうな石造りの街。黒いトレンチに肩からライカを下げた野性的な男(ニコライ・リー・カース)と、黒いコートに白いマフラーが似合う金髪美女(マリア・ボネヴィー。男の恋人と2役。この2役もマジック感を醸しだす)のカップルがいかにも似合う。

果たして男と女は一緒にローマに旅立つのか? という、これも映画の通俗的なパターンをなぞりながら、出会いと同じ駅のホームを使って見る者をドキドキさせてくれる(このシーンの移動撮影は見事)。最後はまた、ファースト・シーンと同じコペンハーゲンの街角。お話はリセットされて、男と女の糸の偶然の絡み合いが、また別の展開を予感させる。

語り尽くされたラブストーリーを「再構築」して、恋の初発の輝きをいまいちど描きなおそうとする試みは成功したのか。「YES」とは言えないけれど、ひねりの利いたラブストーリーであることは確か。

若いスタッフの経歴を見ると、プロデューサーはラース・フォン・トリアーのアシスタントをしていたり、作曲家はビョークとコラボレートしていたり。僕は2人とも好みではないけど、北ヨーロッパでの2人の存在の大きさとネットワークの広がりを感じる。


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Comments

こんばんは。
観てきましたが、パンフを友人に預けたまま、帰ってきてしまいました。すでに細かい描写は忘れかけていますが、パンフを読んだ上で可能であればレビューを書きたいと思います。

私にとっては、予想以上の出来でした。
同じデンマーク映画でも、やはりドグマとは違ったアプローチだったと思います。

Posted by: [M] | January 14, 2005 at 08:59 PM

>[M]様

レビュー、楽しみにしています。確かにこの邦題は失敗作ですね。本来あてにすべき客には情報が届かず、甘いラブストーリーと思って見に来た客は失望して帰るでしょう。僕もあやうく見過ごすところでした。

Posted by: | January 15, 2005 at 02:16 PM

こんにちは。
私もこの前見て来ました。
ホントは甘~いラブストーリーを期待して(笑)
でも、色々考えさせられたし良かったです。
もし邦題が「再構築」だったら見てなかったかも(^^;)

Posted by: みさ | January 15, 2005 at 07:02 PM

>みささま

コメント&TBありがとうございます。

いろいろ細工はあっても結局はラブストーリーになっていて、映画好きなら楽しめるようにつくられているのがいいですね。

みささんがブログに書かれているように、「ヨーロッパは大人の街」というのは本当にそうですね。北欧の街は人が少ないのも(カウリスマキの映画ほどでないにしても)印象的でした。

Posted by: | January 17, 2005 at 03:10 PM

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