« 『脳と仮想』のクオリア | Main | 続『灰とダイヤモンド』の謎 »

November 27, 2004

『血と骨』の叙事

映画は、食いつめて日本本土に移住するために船に乗りくんだ朝鮮人たちが、波の彼方に煙突が並び立つ大阪の工場地帯を望んで歓声を上げるシーンから始まる。

そのシーンを見て、崔洋一監督はこの映画で『ゴッドファーザー』みたいな、あるいは『ギャング・オブ・ニューヨーク』みたいな移民の叙事物語をつくりたいのだなと思った。そしてその試みはある部分では成功し、ある部分ではうまくいかなかった。

日本映画が在日朝鮮人の一代記というテーマを扱うとき、むずかしい問題をかかえこむことになる。植民地支配、強制連行、差別といった歴史をどう扱うか。そこを避けて通ることはできない。すると、映画はどうしても「加害-被害」「差別-被差別」という視点を孕むことになる。教科書なら必須でも、それによって映画がよくなる保証はない。むしろ、ある種の予定調和の世界が出現してしまう危険さえある。

崔洋一監督(共同脚本は鄭義信)は、そんな「加害-被害」の関係を目に見える形では映画のなかに導入しなかった。梁石日の小説がそうした視点に立っていないこともあるけれど、原作・脚本・監督が在日チームだったからこそ取りえた戦略だろう。その意味では、彼ら以外ではこの映画は成り立たなかった。

映画は大文字の歴史を背景として描きながら(省略した描写で若い人が理解できるだろうかという心配はあるが)、小さな朝鮮人集落に焦点を合わせて、ひたすらビートたけし演ずる金俊平の欲望むき出しの行動だけを追っていく。だからこの映画には、戦中のシーンに朝鮮語で「万歳」を叫ぶ青年を殴る体制協力的な朝鮮人は出てきても、日本人はほとんど出てこない。

大きな役で登場する日本人は2人だけ。金俊平に囲われる戦争未亡人と、やはり愛人となる子連れの女(中村優子と濱田マリがいい雰囲気)。2人とも、強者である金俊平に金と性と暴力で組み敷かれる弱者として描かれている。僕はそこに崔=鄭組のメッセージを感じた。

22軒の家を建てたという朝鮮人集落のオープンセットがリアルだ。バラックや工場、看板や家具、機械類にいたるまで、高度成長以前の貧しかった時代の町並みが見事に再現されている。その時代を知る年代として、また小学校時代に朝鮮人の同級生の家に出入りした記憶を持つ身として、違和感をまったく感じなかった。

ビートたけしと、ひたすらに忍従する妻を演ずる鈴木京香はもちろんいいけれど、俊平の家にころがりこむ腹違いの子供・朴武を演ずるオダギリジョーが、凶暴さと甘えを同居させて素晴らしい。激しい雨のなかで演じられるビートたけしとオダギリジョーの長い格闘シーンは、2人とも演技じゃなく本気? と錯覚させられるほど。

それに比べると俊平の長男・正雄(新井清文)の描き方が弱い。それがこの映画のいちばんの弱点ではないかな。

映画は正雄の1人称で語られる。正雄の目からみた父の、金と性と暴力がむき出しにされた生が描かれるわけだが、父の理不尽さへの正雄の恐怖や怒りの感情が、映画の導入部で見る者を納得させるようには描かれていない。父と息子の対立がくっきりしないから、観客の感情は同一化する対象を見つけられずにさまようしかなく、だから激しい暴力シーンの連続がいまひとつ響いてこない。

後半の叙事的な語りがいいだけに、映画に乗りきれない自分がもどかしかった。もうちょっとなのに、なんとかしてくれ、って感じ。

印象に残るショットやシーンはたくさんある。脳障害で廃人になった戦争未亡人を盥でいたわるように水浴させる、俊平の優しさを感じさせるシーン。言葉を失った彼女がバラックの2階の窓から呆然と通りをながめているロングショット。半身不随になった俊平が、家を出て地方のスマートボールで働いている正雄に会いに行き、ちあきなおみの「喝采」が流れるシーン。韓国ロケしたらしいラストシーンも、俊平の孤独を際立たせていた。

|

« 『脳と仮想』のクオリア | Main | 続『灰とダイヤモンド』の謎 »

Comments

TB、ありがとうございましたm(_ _)m
こちらもTBさせていただきました。

>ビートたけしとオダギリジョーの長い格闘シーンは、2人とも演技じゃなく本気? と錯覚させられるほど。

この格闘でタケちゃんは脱臼したとか(笑) ?
本気になったみたいですね(笑)
タケちゃんのコメントに、濱田マリに背中をたたかれる
シーンでは、痛くないように貼られたカバーと
違う部分を叩かれて、本当に痛かったとか(爆)

Posted by: cyaz | November 27, 2004 01:50 PM

>cyaz様

コメント&TB、ありがとうございます。

あのシーン、濱田マリは本気でびしばし叩いてましたよね。でも、そういうことの積み重ねがこの映画のリアリティーを支えているんでしょうね。

Posted by: | November 28, 2004 11:22 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 『血と骨』の叙事:

» ■ 「血と骨」 見終わった後、何故か元気になった。 [::: 渋谷発!我等 “宝毛団” ~ takarage...]
公開当日。早速、新宿ピカデリー2へ。 ¥1300 (レイト・ショーのため一律) 安すぎたな…。 オープニング、まず「音」に注目してほしい。 そこから映... [Read More]

Tracked on November 27, 2004 11:57 AM

» 『血と骨』 [京の昼寝〜♪]
■監督 崔洋一 ■原作 梁石日 ■主演 ビートたけし、鈴木京香、新井浩文、オダギリジョー 1923年。 成功を夢見て祖国から大阪へ渡った少年・金俊平(ビートたけ... [Read More]

Tracked on November 27, 2004 01:44 PM

» 血と骨 (2004) 144分 [極私的映画論+α]
1923年、大阪。ある日、済州島からの出稼ぎ労働者が住まう朝鮮人集落に金俊平という男がやって来る。彼も他の朝鮮移民と同じく日本で一旗揚げることを夢みて渡ってき... [Read More]

Tracked on November 28, 2004 02:02 AM

» 血と骨 [30歳独身男Kazuakiの映画日記]
「渾身の一作。2時間半、金俊平の人生を生きる映画。良くも悪くも、それ以上でもそれ以下でもない。」 今日2本目の観賞は「血と骨」です。予告編を観たことある人ならど... [Read More]

Tracked on December 05, 2004 11:15 PM

» 血と骨 [distan日誌]
崔洋一監督の「血と骨」。原作は、梁石白(ヤン・ソギル)の自伝的小説。 とにかく壮絶で、重く、暗い映画でした。 ビートたけしを始めとして、俳優陣の演技が良かっ... [Read More]

Tracked on January 07, 2005 01:42 AM

» 血と骨 [ FOR BRILLIANT FUTURE]
崔 洋一監督、ビートたけし主演、の映画でした。 今回のビートたけしは監督業はせず、役者に専念するとの事でしたが、物凄い迫力の映画でした。見ていて鬼気迫る物があ... [Read More]

Tracked on February 10, 2005 12:58 AM

» 元日から悪夢「血と骨」 [万歳!映画パラダイス〜京都ほろ酔い日記]
 よりによって、元日の夜に観た映画が血まみれの「血と骨」(崔洋一監督)とは。不吉な今年?を占うようで、まずいモノを観てしまったものだ。この映画、公開されたのは1年以上前なのだが、WOWOWの正月ラインアップに入っていた。凄惨な暴力シーン、強引なセックスシ....... [Read More]

Tracked on January 02, 2006 03:11 AM

» 映画『血と骨』 [茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~]
1923年、大阪へと向かう船上には一旗揚げようと、済州島を後にした若き日の金俊平(ビートたけし)、そのバイオレンスと哀しみに満ちた物語。 「ALWAYS 三丁目の夕日」を思わせるシーンが随所に現れ、時代背景も似ているが、こちらは感動を誘う芝居などありはしない。... [Read More]

Tracked on January 03, 2006 05:16 PM

« 『脳と仮想』のクオリア | Main | 続『灰とダイヤモンド』の謎 »