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November 13, 2004

『オールド・ボーイ』の力技

韓国映画のパワーをまざまざと感じさせる作品だった。1980年代から東アジア映画をリードしてきた香港・台湾・中国の中国語圏映画に勢いが感じられないこの数年、韓国映画の元気のよさは際立っている。今年のカンヌ映画祭でグランプリを取った『オールド・ボーイ』は、その象徴として記憶されることになるに違いない。

ただ、僕はこの映画、好みで言えば好きにはなれなかった。

もし1本の映画に投入される感情の総和、あるいは1本の映画から喚起される感情の総和を計ることができるとすれば、韓国映画は昔から日本映画や中国映画に比べてもその和が飛びぬけて大きかった(『8月のクリスマス』以降のニューウェーブは、その意味では異端に属する)。『オールド・ボーイ』は、そうした韓国映画の王道を行っている作品だと思った。

男と男の復讐譚、宿命劇。青春のセンチメンタリズム。生理を逆なでする暴力描写。ゴス趣味のセット。感情を煽るワルツのテーマ曲。アクの強い色んな要素がぶちこまれ、そんな濃いパーツを腕力でつないで2転3転させ最後の逆転まで引っ張ってゆく。監督は『JSA』のパク・チャヌク。

なにより主演のチェ・ミンシクの存在が大きい。15年間、理由も分からず監禁され、突然に解放されて、5日以内に監禁の理由を解き明かせと命じられる中年男。復讐と怨念に駆り立てられる、日本映画なら役所広司あたりの役どころを『シュリ』のチェ・ミンシクが熱く演ずる。端正な顔立ちを、無精髭とぼさぼさ髪と深い皺を刻んだメークに隠してオーバーアクション気味に憑かれた狂気を発散させている。

相手役のカン・ヘジョンは最初、厚いメークで登場し、え? という感じで魅力を感じなかったけれど、どんどんと美しさを増す。清楚さがエロティックな(なぜかは説明できない)ラストシーンのアップが官能的。二重瞼が印象に残る。楽しみな女優だね。

ところでこの映画、人間をシチュエーションで動かしすぎているように僕には思えた。幾重にも罠を張り、ストーリーを次々に展開させていくことによって、主人公たちは喜怒哀楽の感情に翻弄される。そういうシチュエーションに放りこまれれば人間誰でもそうなるよな、とは思うけど、ふとした表情とか仕草とかディテールの描写が少ないので、それらにリアリティーがやや薄い。まあ、そういうことを狙ってる映画ではないけど。

あるいは暴力描写。歯をペンチで引き抜いたり舌をハサミで切ったり観客の皮膚感覚をゾロリと泡立たせるけれど、表層の生理的刺激に終わって、それ以上に奥深い恐怖へと引きずりめなかったような気がする。一言でいえば、荒っぽい。裏を返せば刺激とスピード感はたっぷりある。

監督はインタビューで、映画2本分の内容を詰め込んだと言っている。ストーリーを動かすこと、シチュエーションを複雑に転換させることで重い主題を語ろうとしたために、映画全体が強引な力技という印象になったのではないか。だから最後に主人公たちが泣き、わめき、許しを乞い、抱き合っても、僕にはいまひとつ心に届いてこなかった。映画の出来というよりは、好みの問題なんだろう。

一方にこんなパワフルな映画があり、一方に『子猫をお願い』みたいなニューウェーブの佳作があり、その幅の広さが韓国映画を支えている。 

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