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November 02, 2004

『コラテラル』のノワール度

好みの映画に当たって「身も心も」スクリーンにゆだねたいのに、微妙な、でも大事なところで小さな違和感がごろごろと凝って、そうできないのが悔しい。『コラテラル』は、そんな映画だった。

トム・クルーズがプロフェッショナルな殺し屋に扮する。翌日から開廷する事件の証人ら5人を1晩で殺す契約を請け負ってロスにやってきたヒットマン。殺す相手に対して何の感情も見せず、「仕事」の邪魔をする人間には躊躇なく銃を向ける。『マグノリア』(傑作!)もそうだったけれど、単純な2枚目を脱皮しようとする役柄に、クルーズ・ファンはどう反応するんだろう。渋い銀髪で頑張ってるけどね。

それに「巻き込まれ(コラテラル)」るのがタクシー運転手のジェイミー・フォックス。実直で腕のいいドライバーなのだけれど、リムジン・ハイヤー経営を夢見ながら長いことタクシー運転手に甘んじている。そんなフォックスが、客として乗せたクルーズに脅され、無理強いされながら、ある瞬間からりりしい男に変わっていくのが、もうひとつの見どころ。テレビ・コメディーの人気者だというアフリカ系のフォックスを、物静かな、でも気弱なところもある男を演じさせたのがうまい。

監督はテレビの『マイアミ・バイス』シリーズでブレークしたマイケル・マン。

彼の作品には「男の映画」とか「スタイリッシュな映像」とかキャッチコピーがつくことが多い。ここでも美しいロスの夜景のなかに2人の男の生き方を対比させ、ロックにジャズにソウルと途切れることなく流れる音楽もてんこ盛り、ジャズ・クラブでのハードボイルドな殺しの後にはモッブ・シーンでのアクションとサービスも満点、おまけに深夜のロスの交差点を野生のコヨーテが横切る象徴的なシーンまであって、たっぷりと楽しめる映画になっている。

でもワタクシ的には、この映画の面白いところがそのまま微妙に凝っていることも確か。

1晩の話だから全編が夜で、それは見事なカメラワークなのだけれど、ロスの夜景が華麗すぎて陰影に乏しい。「地下鉄で、誰にも知られず男が死んだ」とか「これが仕事だ」とか、決めゼリフが過剰でカッコつけすぎ。3分に1回ハラハラさせるような速すぎるテンポと、クライマックスの後にもうひとつヤマをつくる、近頃のハリウッドの常道も気になる。しかもその2つのシーンがオーソン・ウェルズの傑作『上海から来た女』とアクション映画の名作『フレンチ・コネクション』からヒントを得ていることも、過去の作品へのオマージュというよりパクリめいている。最初の5分でラストの予想がつくのも、ちょっと弱い。

ひとことで言えば、ノワールふう映画なのにノワールのエッセンスの1滴が足りないんじゃないの。

……と文句を並べたけれど、最近のハリウッドはこの手の映画が少ないから、『コラテラル』を見られただけでも良しとすべきなんだろうな。しかもこのいちゃもんはあくまでワタクシ的なもので、裏を返せばなかなか良くできたハリウッド映画だということは、よーく自覚しております。

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Comments

記事興味深く読ませていただきました。
こちらかもTB返しさせていただきます。
よろしくお願いします。

Posted by: ハリネズミ | November 02, 2004 04:53 PM

TBありがとうございます。

ハリネズミさんの読みはていねいで、マイケル・マンへの愛にあふれていますね。私は『ヒート』くらいしか見ていませんでしたが、これからは新作を必ず見ることになるでしょう。

Posted by: | November 02, 2004 10:07 PM

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