リニューアルした『散歩の達人』
『散歩の達人』(交通新聞社)が割と好きだ。その『サンタツ』がリニューアルして、「新装しました。」と表紙に刷り込まれている(11月号)。リニューアルというのは数字が低迷しているときにやるものと、業界では決まっている。
で、何が変わったかというと、まず本文にいい紙を使っている。さすがに色の出方は、ぐんと良くなった。1色(黒インクだけの)ページもなくしたから、貧乏くささもなくなった。レイアウトも、ひと昔前の雑誌のような野暮ったさ(意図的にそうしているのかと思っていた)を捨てた。要するに普通の雑誌になった。
特集は「銀座」「築地」の2本立てと、これまた普通の雑誌になった。ちなみに今年の1月号からの特集を並べてみると、「市川・本八幡」「下北沢・駒場」「池袋・目白」「調布・府中」「東急世田谷線」「江古田・練馬」「高円寺・阿佐ヶ谷」「向島・曳舟」「浦安・葛西」ときて、リニューアル直前の10月号は「川口・蕨」。「川口・蕨」なんて、どう考えても『サンタツ』以外、見向きもされない街だよね(馬鹿にしているのではありません。小生、川口育ちなもので、これは裏返しの愛情表現)。
リニューアル号に台北に住む読者からの投稿が載っていた。「海外在住者にとって散達は凶器です。駐在員は接待で高級和食を食べる機会が日本にいるときより多いのですが、食べたい! 飲みたい! のはコロッケであり、カレーうどんであり、ソースにたっぷりひたした串かつであり、ホッピーであり……」。
「銀座」「築地」に「サンタツ精神」は貫かれているか? 頑張ってはいる。頑張ってはいるけれど、『サライ』や『東京人』その他もろもろの雑誌の「定番」や「高級店」も取り上げてしまうところが中途半端というか。
例えば鮨屋。「数寄屋橋次郎」こそないけれど、予算は「1万円」「1万5千円」「2万円」「3万5千円」が並ぶ(「1万円」の店には小生も行ったことがある。その予算では収まらなかった。うまかったけれど、あまりの勘定の高さに、その後、足を踏み入れていない)。全体に「裏路地の銀座」ではなく、「1ランク下の銀座」といった特集になっているような気がする。
リニューアルした意図はなんだろう。ローカルな街の特集はひとめぐりしてしまった。それはあるだろう(川口までやるんだから)。より上品で、おしゃれな雑誌にしたい。リニューアル誌面は明らかにその方向を向いている。でも、「サンタツ精神」を求める読者には不満が残り、一方、「上品」「おしゃれ」「高級」方面では並みいる他誌に太刀打ちできない。「銀座」「築地」で読者を広げられるだろうか。
と文句を言いつつ他のページを見ると、これが面白い。連載「旧道File」の「墨田区八広の煙突ロード」では下町のヘンな煙突を見つけては、☆1つとか1つ半とか採点して遊んでいる。「中古民家主義」は、東京の木造建築の「基礎知識」を手際よくまとめてくれる。連載「THE 軍事遺跡」は「神奈川県三浦市の砲弾海岸」。新連載「お墓で逢いましょう」は、西多摩霊園の松田優作の墓。「散歩者インタビュー」は吉本隆明に銀座や月島の話を聞いている。
うーん、こっちのほうがやっぱり『サンタツ』に相応しい。『サンタツ』の誌面には、うちは予算がありません、その代わり、徹底的に足で歩いて編集者やライターの好みで書かせていただきます、という匂いが漂っている。雑誌の初心を思い起こさせるそんな匂いを失って、普通の雑誌になってほしくないなあ。
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