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October 05, 2004

『2046』の欲張り

そりゃあいくらなんでも欲張りすぎでしょ、というのが見終わっての感想(試写)。だって、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー、コン・リーの3人をメーンに、カリーナ・ラウ、特別出演のマギー・チャンまで、中国・香港を代表する女優5人をずらりと揃えて大メロドラマをつくろうというんだから。しかもフェイ・ウォンは現在と未来のアンドロイドの2役だから、合わせて6人の愛や恋を一本の映画にする。

まあ、顔を見てれば満足という、5人のうち誰かのファンであれば問題はない。アンドロイドのフェイ・ウォンはキュートだし、チャン・ツィイーの娼婦もかわいい。ただコン・リーのファン(僕のことだ)には不満が残る。コン・リーが美しく撮られていないではないか。という私憤は抜きにしても、映画の終わり近く、そろそろエンドマークかなと思ったあたりから、冒頭にちらっと出てきた黒いドレスに黒手袋の女ギャンブラー、コン・リーの物語が語られ出す。

トニー・レオンは大過去のマギー・チャンとの愛の挫折がトラウマになっているのだけれど、コン・リーとも同じような近過去のトラウマ話(ごていねいにマギー・チャンの役と同姓同名の設定)が繰り返される。しかも、現在と未来の話がほとんど終わってから。

男と女の話なんて、そうそうバリエーションがあるわけじゃないから、コン・リーかマギー・チャンか、どちらか(多分、コン・リー)はこの映画には必要なかった。ドラマの必然というより、製作者でもあるウォン・カーウァイが中国語圏トップ女優の顔見せにこだわったのか。コン・リーにまで声をかけたことのツケが最後に蛇足のようなエピソードになったと考えるのは、男のひがみもあるかも。

チャン・ツィイー、フェイ・ウォンとの現在(1960年代)の話は、古ぼけたホテルの「2046」号室を主な舞台に、ほとんどがセットで撮られている。『花様年華』もそうだったけれど、クリストファー・ドイル(撮影)の映像に、なぜかかつての大映、なかでも1960年代の増村保造のカラー映画を思い出してしまった。

1960年代というこの映画の設定は、増村が若尾文子主演で都会の風俗映画なんかもつくっていた時代。匂いが似ていることもあるけれど、くすんだ色彩、つくりものめいたセット、フレームの手前に紅いカーテンや壁、人の後ろ姿を大きく配し、奥の人物にピントを合わせた奥行きのある画面づくりなんかそっくりで、増村作品でおなじみの列車の音(この場合は市電?)まで響いてくる。カーウァイあるいはドイルは増村を見てるんだろうかと、冗談じゃなく考えてしまった。

一方、未来(2046年)の香港の映像は、『ブレードランナー』がつくりだした「未来のLAチャイナタウン」の想像力の枠からはみ出してない、というのが僕の判定。

もっとも、キムタクは悪くない。トニー・レオンの未来の分身という役どころ。トニーの、ちょっと目を細めたり、かすかに微笑んだり、微妙な表情で複雑な感情を表す巧みさ(酸いも甘いも噛み分けた、ってやつですね)に太刀打ちはできないけれど、アンドロイドのフェイ・ウォンに恋する青年を一直線に演じている。

90年代初めに『欲望の翼』(『2046』のカリーナ・ラウは、この作品の彼女と同一人物らしい)や『恋する惑星』でブレークした新感覚のラブ・ストーリーと、『花様年華』(マギー・チャンも役名は違うが、2本の映画で同一人物と考えることもできる)の古風なメロドラマが入れ子になったような印象を、全体からは受けた。その意味でウォン・カーウァイの集大成であることは確か。ま、役者を見ているだけでも損しません。

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Comments

はじめまして。2046のリンクをたどってやって来ました。

フォトグラファーでもあるドイル氏は、モノクロ写真を
人工着色したような色彩で60年代という時代を作って
いったのかなぁと思っていたのですが、
かつての大映映画のよう、という部分に、なるほどーと
思ってしまいました。そういうつながりもありそうですね。

未来の香港の映像は、思いの外デジタルな世界で、
それでもわざとローテクな描画を施してあったのが、
カーウァイらしさなのか?と思いました。

@稚拙な内容ですが、TBさせていただきました。

Posted by: tzucca | October 25, 2004 at 01:59 AM

>tzucca様

TB&コメント、ありがとうございます。

tzuccaさんのブログで教えられましたが、これはカーウァイの初めてのシネスコだったんですね。シネスコはもともと作る側というより商業的要請から出来たものなので、監督やカメラマンはシネスコの絵をどうつくるか、ずいぶん苦労したようですね。増村保造や加藤泰の映画を見ていると、いろいろ工夫しているのがよく分かります。カーウァイ=ドイル組があえてシネスコ・サイズを選んだのは、どういうことなんでしょう。ある種の「不安定さ」を、フレームのなかに求めたんでしょうか。

大映については私の勝手な連想ですが、カーウァイ=ドイルが当時の大映映画を香港映画祭なんかで見ている可能性はあると思います。ドイルはカーウァイだけでなく、誰と組んでもいいですね。あの映像感覚、好きです。

Posted by: | October 25, 2004 at 04:29 PM

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