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September 11, 2004

ウィリアム・クラインのパリ

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ウィリアム・クライン写真展「PARIS+KLEIN」を見てきた(10月6日まで、東京都写真美術館)。2002年にパリのヨーロッパ写真美術館で開催されたものの巡回展。1980年代以降にパリで撮られたカラー75点が大型パネルで展示されている(東京展ではモノクロの代表作も追加)。

僕たちにとってウィリアム・クラインの名前が神話化されたのは、森山大道や中平卓馬の写真や文章によるところが大きい。

1960年代、森山や中平はクラインの写真集『NEWYORK』に衝撃を受けて自らの写真の方向を定めていった。それは「ブレボケ」という言葉に象徴される、動く被写体がぶれ、至近距離の被写体がぼけ、粒子の粗いざらっとした感触の写真だった。60年代後半から70年代前半にかけて、森山も中平もその方向に作品を激化させていったから、クラインもアレ・ブレ・ボケの元祖という思いこみが定着した。

でもクラインは『NEWYORK』の作家であると同時に、『VOGUE』で活躍するファッション写真家でもあった。もちろん『NEWYORK』にはブレもボケもアレもあるけれど、丹念に見ていくとそのような写真は思いのほか少ない。「ブレボケ」を自らの表現の根底にかかわるものとして言わば実存的に受け取った森山や中平に対して、クラインにとってはファッション写真家としての多彩なテクニックのひとつだったのだと、今ならば言える。

多彩なテクニックをもつファッション写真家という言い方で、僕はクラインを貶めたいのではない。逆にそのような写真家だからこそ、ニューヨークという多面的で複雑な都市の暴力的なエネルギーを、見事に一冊の写真集のなかに捕らえることができた。

『NEWYORK』は、大都会の路上にうごめく群衆に始まり、銃を持つ少年少女、町のポスターや看板、ネオン、そして高層ビルの風景など、さまざまな対象を切れ味鋭く切り取った、いま見直しても三十数年前の興奮がよみがえる写真集だ。

今回の「PARIS」は、クラインが写真をいったん離れて映画に行き、80年代にもう一度写真に戻ってからの作品で構成されている。ここでは、『NEWYORK』に見られた多様な被写体のなかから、クラインの興味はもっぱら人間たちに絞られているように見える。

パリの路上で繰り広げられる高校生のデモやゲイのパレード(写真)。カーニバル。葬儀。セレブのパーティーや、ショーのバックステージ。シャンゼリゼのツール・ド・フランスやラグビーの代表戦。広角系の画面いっぱいに被写体を取り込み、もちろん「ブレボケ」を含む多彩なテクニックは相変わらずで、加えて、カラーによる色彩の氾濫が見る者を圧倒する。

クラインの人間を見る眼は、一言で言って醒めている。フレームの隅々までを人や街路や建物で埋めつくす密度に反比例するように、距離をおいて、冷たい。それはファッション写真家がマヌカンを見る眼と言ったらいいだろうか。写真家にとって、マヌカンは喜びや悲しみを分かち合う隣人ではない。そのような眼をもってクラインはニューヨークを、モスクワを、東京を撮ってきた。

ここでもクラインはまったく同じように、マヌカンを見る眼でパリの人間たちを見ている。そしてパリの路上は、とびきり奇妙で、とびきりシックで、とびきり偽善的で、とびきり美しいマヌカンたちであふれているのだ。

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Comments

rossaです。こんばんは☆コメントありがとうございます。
rossaは、写真は全然詳しくないです。でもね、すごく面白かったクール!!と思った☆もっと見たい~!って思いました。たくさん見て、もっとたくさん、はっ!!っとしたかったです☆
リンクさせてください。お願いします。

Posted by: rossa | October 14, 2004 at 01:22 AM

>rossaさま

リンク、ありがとうございます。
機会があったら『NEWYORK』をご覧になってください。クール!でバッド!です。
数年前にフランスで復刻版が出版されましたから、洋書店か図書館にあると思います。

Posted by: | October 14, 2004 at 06:46 PM

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