『インファナル・アフェア 無間序曲』の闇
前作『インファナル・アフェア』で魅力的な脇役だった警部と、マフィアのボスであるサム。2人が深い影と光のなかで対話するファーストシーンで、この映画が両者の対決と友情をめぐって展開することが示される。
画面が一転すると、自分の組の大ボスを殺しに夜の街を行くちんぴら(エディソン・チャン。前作はアンディー・ラウの役)の背を、手持ちカメラがゆらゆらと追いかける。静から動へと見事なリズム。導入部で早くもぞくっとさせる。
夜のシーンが画面を支配している。殺された大ボスを継いだ息子が、裏切りを画策する4人の幹部を殺す場面は夜。大ボスの息子とサムが対決する場面も夜。細い路地、路上の屋台、雑居ビルのネオン。ほとんどがロケなのだろう、闇のなかに原色の色彩がちりばめられた映像の艶にほれぼれする(撮影は監督でもあるアンドリュー・ラウ)。この映画の主役は夜の香港だと言ってもいいくらいだ。
前作『インファナル・アフェア』は、沈滞していた香港ノワールを見事に復活させた。警察に潜入したマフィア、マフィアに潜入した捜査官(ショーン・ユー。前作はトニー・レオン)、潜入捜査官の上司である警部とマフィアのボス、サム。この映画では前作の11年前に舞台が設定され、香港の中国返還を背景に運命的に絡みあう4人の前史が描かれる。
前作では女性はあっさり描かれていたけれど、この映画では女が男たちの運命をことりと回転させる。サムの妻(カリーナ・ラウ)は夫には知らせずに、ちんぴらを使って大ボスを殺させた。これは警部との共謀で、警部とマリーは寝たことがある(らしい。海の見えるホテルの一室のシーンは、そう解釈するほうが陰影が濃くなる)。大ボスを殺して警察に潜入したちんぴらもサムの妻に惚れているが、冷たくされたことで彼女を裏切る。一方、潜入捜査官は実は大ボスの私生児で……。
これでもかとばかりに人間関係が絡み合う。そのもつれが銃と血によって解決される。警察と黒社会の対立、組織内の抗争、友情と裏切り、男と女、家族の血のつながり。次から次へたたみかける展開と情感を煽る音楽、この濃さこそが香港ノワールなんだなあ。
役者がまた揃っている。警部のアンソニー・ウォン、サムのエリック・ツァンはもちろん、冷血な大ボスの息子を演ずるフランシス・ンが、激情を感じさせながらも抑えた芝居を見せる(弟の裏切りを知りながら息絶えるシーンが泣かせる)。日本映画によく出てくる絶叫と大げさな身振りがないのがいい。
香港ではもう第3作の『インファナル・アフェア 終極無間』が公開されている。潜入捜査官と潜入マフィアは、第1作と同じトニー・レオンとアンディ・ラウに戻る。このシリーズ、『ゴッドファーザー』や『仁義なき戦い』と同様に、後々まで語り継がれる香港ノワールになるにちがいない。
<後記>TBしていただいたムーさんから、この映画について詳しい紹介とコメントをしているサイトがあるのを教わった。それによると、原作の小説があり、そこでは警部とサムとサムの妻は幼なじみで、警部とサムが共に彼女に惚れ、彼女はサムを選んだらしい。それで、ホテルの一室のシーン、ただ利害だけで動いているのではない2人の微妙な空気が理解できる。充実したサイトだけど、これから映画を見ようという人はネタばれもあるので、ご注意を。
<追記>DVDでこの作品を見直した。ホテルの一室での警部とサムの妻のシーン。女はベッドに座っている。警部は女に触れるほどの距離まで近づく。女の顎に手をかけて女の顔を上へ向ける。この一つながりのカットは、やはり2人が男と女の関係にあること(幼なじみであるにしても)を暗示する描写ではないかと感じた。(2005・10・14)
Comments
初めまして、Hitomiです。TBありがとうございました。
このシリーズは本当にいいですよね。
《無間序曲》は派手なキャスティングはありませんが各個人の心の奥まで描かれてる気がします。《終極無間》GWまで長いですね。
Posted by: Hitomi | September 28, 2004 08:11 PM
Hitomiさんも書かれているように、僕もフランシス・ンに泣かされました。ビジネスマン然としたボスからは、タイプは違いますが『ゴッドファーザー』で学生ふうな幼さを残したままボスになったアル・パチーノを思い出しました。この作品の影の主役ですね。
Posted by: 雄 | September 28, 2004 11:02 PM