ブログの可能性
ブログを始めて1カ月になる。アクセスは多くて日に50件だけれど、8月5日の木曜日、いきなり165に跳ね上がった。
どうしたのかと思って、「アクセス解析」で「検索ワード」を調べたら、ほとんどが「カルティエ=ブレッソン」「決定的瞬間」だったんですね。この日の夕刊に、ブレッソンの死が報じられている。
「『決定的瞬間』の呪縛」と題した僕の記事は、今橋映子『<パリ写真>の世紀』について、本文の記述から、ブレッソンの有名な写真集のタイトルがフランス語の原題とはニュアンスが違うという部分を紹介して、自分の感想を記したものだった。
さらに細かく時間ごとのアクセスを調べると、2つの山があった。ひとつは午前中で、まだテレビや新聞で彼の死が報道されていない時間帯に当たる。もうひとつの山は夕方以降で、これは夕刊が配達された後の時間に当たる。
まだ報道されていない時間帯の山は、誰が検索したのだろうか。おそらくブレッソンが亡くなったという一報を受けたメディアの人間が、記事を書くための参考に引いたに違いない。それは編集者として僕自身がよくやることだから、よく分かる。最近では平凡社の大百科(CD-ROMを常備)を引く前に、まずGoogleで引いてみることが多い。
さらに数日して新聞のコラムで、『決定的瞬間』というタイトルの「意訳」について触れた文章を目にした。このタイトルの件は写真関係者には知られているし、そもそも僕のブログが他人の本を紹介したものだから、その本を読んだ人なら誰でも知っている。だからコラムの筆者が僕のブログを読んだ可能性は小さい。
でも、ブレッソンの死にいろんな意味で興味を持った人が、信頼度は低いが無数の項目の立つ百科事典の代わりにインターネットを使ったことで、僕のブログへのアクセスが一時的に跳ね上がったことは確かだろう。
話は変わるけど、ブログにはホームページとはまた別の可能性を感ずることがある。なにより専門知識を必要とせず、僕のようにワープロとメールとインターネットがあれば十分というレベルの人間でも運営できるのがいい。僕はまだ十分に使いこなせていないけれど、コメントによってホームページよりずっと互いの意思を伝えやすいし、トラックバックを張ることで簡単にネットワーキングもできる。
僕の友人はブログでそんな可能性を指摘しているし、実際に教えている大学でブログを使って授業を試みてもいる(サイト「Radical Imagination」[Links参照]の「ブログと2ちゃんねる」)。
友人はそこで「一人総合雑誌」とでも言えるブログを紹介しているが、これも興味深い。コメントやトラックバックをうまく使えば、「一人雑誌」や「一人新聞」といったネット上の新しいジャーナリズムのかたちだって見えてくるかもしれない。
僕はサイト「ブック・ナビ」で書評を書いているが、『サラーム・パックス』という本を取り上げたことがある。イラク戦争のとき、米軍爆撃下のバクダッドから同時中継的に書かれていたブログを翻訳したものだ。次々にトラックバックが張られることで世界に広がり、多くの人が彼のブログを見た。これなど湾岸戦争時のCNNに匹敵するジャーナリズム性を持ったんじゃないだろうか。
ジャーナリズムは情報が命で、その収集には膨大なカネと人手が必要だから、メディアは必然的に企業化するというのがこれまでの常識だった。でも、「サラーム・パックス」がバクダッド発だったことで意味をもったように、誰でもなんらかのオリジナルな立場や主張をもっている。そのオリジナルによって、「一人新聞」や「一人雑誌」は成立する。
そんな「一人新聞」や「一人雑誌」がテーマに応じてネットワークを組むことで、時にはマス・メディア以上の力を発揮することができるかもしれない。情報流通のスピードに関しては、ネットは十分にテレビに対抗できる同時性を持っていると思う。
またそれぞれのブログが独自のスタンスを取ることで、多様な視点も期待できる。別の友人が、プロ野球の1リーグ制騒動で「読売不買のすすめ」を書いたら、やはりアクセスとトラックバックが急増したと書いている(ブログ「ブック・ナビ」[Links参照])。主張のはっきりした「一人新聞」「一人雑誌」がゆるやかにネットワークを組むことで、「客観報道」ではない個性あるジャーナリズムをつくれるかもしれない。
ただ、これも先の友人が指摘していることだが、ブログはアメリカでは実名が基本だという(友人も実名でブログを運営している)。そのことによって情報の信頼性を確保しているわけだ。この国では「2ちゃんねる」に代表される匿名の悪意がネット上を吹き荒れているけれど、これからのネット文化がどういう方向に進むのか(進めていくのか)は大きな問題だろう。
僕もいくつかの理由から実名を出さずにこのブログを運営しているが、いずれは実名でやりたいと思っている。
以上、ブログ初心者が見当違いのことを言ってるのかもしれないけど、友人のブログを最初に見たとき、これは面白いって直感したので、いささか大げさなことを考えてみた次第。
http://oak.way-nifty.com/radical_imagination/
http://saya.txt-nifty.com/booknavi/
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