『コヨーテ』と新井敏記
新しく創刊された隔月刊誌『コヨーテ』を買った(スイッチ・パブリッシング)。編集長は『SWITCH』の名編集者として知られた新井敏記。
僕は『SWITCH』の割といい読者だったと思う。創刊間もない頃から愛読していて、「スポーツ・ライター特集」「サム・シェパード特集」なんか強く印象に残っている。
本を読んで、その著者が好きだなあ、会ってみたいなあ、と思う。そういう読者の気持ちのままに、つてもなく未知のジョージ・プリンプトン(確かそうだった)やサム・シェパードに連絡を取り、会いに行き、その熱意で彼らの協力を得て、1冊まるごとの大特集をつくってしまう。
その姿勢にアマチュアリズムというか、雑誌の初原のかたちが感じられて新鮮だった。「ジョン・カサベテス特集」なんか、今も大事に保存している(僕は自分がかかわった雑誌も捨ててしまうけど)。
その後、沢木耕太郎、池澤夏樹、星野道夫、藤原新也、荒木経惟、坂本龍一らが登場するようになり、文学と写真と音楽の接点での特集がふえた。彼らビックネームが寄稿するようになったのも、1冊の雑誌を生み、見事に育てた編集者としての新井敏記への信頼があったからこそだろう。
雑誌がぐっと若くなったと感じたのは数年前からだろうか。メジャー、マイナーを問わず、ミュージシャンが登場することが多くなった。雑誌が大きくなって部数が伸びたこと、若いスタッフがふえたことが理由なのだろうな、と想像していた。編集長の個性で売ってきた雑誌だけれど、吉田美和やミスチルが新井の好みとも思えなかった。
やがて、新井敏記が編集長を降りるという告知が誌面に載った。雑誌は編集長のものだけれども、同時につくり手を離れて独自の生命を持ってしまうものでもある。新井はおそらく最近の『SWITCH』に、自分との折り合いの悪さを感じていたのではないか。
だから『コヨーテ』は、新井がもう一度、初めからやってみたいと思って創刊した雑誌だな、と感じた。表紙に「magazine for new travelers」とあるように、テーマは「旅」。コヨーテというタイトルが、その精神を表している。
雑誌は創刊間もないころの『SWITCH』に似て、1冊まるごとの大特集というつくりになっている。巻頭に谷川俊太郎の詩、沢木耕太郎と藤原新也のコラム、荒木経惟の連載。特集以外のページはこれだけ。つくりはシンプルだが、筆者は豪華メンバーだ(創刊号に新しい書き手がいないのは寂しいが)。
特集は森山大道。いままで 『SWITCH』が森山を取り上げないのを不思議に思っていたけれど、新井はこの創刊号のために、企画をずっと暖めていたのかもしれない。
メインは大竹昭子が森山に密着したロング・ドキュメント。パリ、松江、池袋と3部構成になっていて、1年以上かけて準備され、取材されたものであることが分かる。森山の過去と現在をていねいに交錯させたドキュメントで、おそらく90年代以降の森山しか知らない若い読者は、彼の年期の入った「放浪」に圧倒されるだろう。パリで森山がウィリアム・クラインに再会する場面が感動的だ。
もちろん森山自身が撮影したパリと宇和島(大竹伸朗とのコラボレーション)、東京(阿部和重とのコラボレーション)があり、写真とはまた別の魅力をもつ文章も寄せている。
ほかにホンマタカシによるインタビュー、森山の愛読書紹介、パリでの展覧会の反響などあって、盛りだくさん。60年代から現在まで一貫して路上を撮りつづけ、しかも時代時代の空気に敏感に感応してしぶとく生きてきた森山大道の現在を、たっぷり楽しめる。なかで森山の写真を大竹伸朗が「貼り付け」た「宇和島」が、意表をつく組み合わせで楽しめた。
さすがに創刊号だけあって、力の入ったつくり。雑誌としての新鮮さや刺激はないけれど、上質の誌面づくりが快い。次号の特集は星野道夫。『SWITCH』で繰り返し特集し、やりつくした感もある星野道夫をどう料理するか。そこに『コヨーテ』の今後がかかっているように思う。期待しよう。

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