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August 28, 2004

偏愛映画リスト ノワール編

本来のフィルム・ノワール、1940年代から50年代にかけてつくられた一群のアメリカ映画は、いま見直してみると実に暗い映画だ。モノクロ画面が「ノワール」であるばかりでなく、映画の底に流れている感情も「ノワール」。第二次大戦後の冷戦やマッカーシズムが反映しているというのが通説だけれど、こんな映画がよく商業ベースに乗ったものだと驚いてしまう。僕の選んだ70年代以降のリストは、エンタテインメントとしても楽しめるものばかり。

●『リスボン特急』(1972)
北フランス海岸の淋しい町。銀行強盗のファースト・シーンが素晴らしい。低くたれこめた雲、波しぶきのかかる人気のない道路、車のウインドーを濡らす雨滴、トレンチコートを着て車の中で待機する無言の男たち。音楽もせりふもなく、聞こえるのは風の音、波の音だけ。初めて見たジャン=ピエール・メルヴィル。冒頭の緊迫した空気感だけで参ってしまった。

フランス製ノワールは、アメリカ製ノワールよりもむしろ日本映画に近い感性を持っているような気がする。強盗犯の顔役が経営するナイト・クラブで、刑事(アラン・ドロン)と、刑事の友人でもある犯人と、2人と関係を持っている情婦(カトリーヌ・ドヌーブ)が互いの腹を探りながら言葉少なに会話する場面は、加藤泰あたりがフランス映画を演出しているかのような気配と間の取り方(メルヴィルには『サムライ』もある)。だからこそ、僕らの胸にびんびん響いてくるのだろう。

●『ブレードランナー』(1982)
近未来のロスを舞台にしたSFだけれど、間違いなくハードボイルドでありノワールの傑作でもある。リドリー・スコットのオリエンタリズムと廃墟趣味が生みだした未来都市ロスの雨のチャイナタウンは、エイリアンの造形(ギーガーのデザイン)とともに、以後の映画に大きな影響を与えた。息子も娘も正統派のノワールやハードボイルドには興味を示さないのに、『ブレードランナー』は好きだという。ノワールの感性を新しい形で次の世代に伝えているからだろう。

リドリー・スコットの『ブラック・レイン』は僕が大阪に住んでいるときにロケがおこなわれた。いつも見慣れた町が、彼の手にかかると見知らぬ町に変貌し、初めて出会った異形の風景となってしまう。現実の彼方に別の風景を見ることのできる彼の幻視する力が、『ブレードランナー』には隅から隅まで張りめぐらされていた。その幻視の力が最近あまり感じられないのは残念だけれど。

●『LAコンフィデンシャル』(1997)
何人もの友人がハリウッド映画はつまらないという。善悪が単純だし、CGばっかりだし。それはそうだけどね、ハリウッドだって捨てたもんじゃないよ、と答える。どうして、と問われると、こう答えることが多い。だって『LAコンフィデンシャル』みたいな映画をつくるんだから。絶滅したかに見えたハリウッドのノワールが蘇った。

1950年代のロスという舞台がいい(CGはこれ見よがしでなく、こう使ってほしい)。ハリウッド・スターに似た高級娼婦という設定がいい。野心と欲望にまみれ、しかし正義感を心の片隅に持っている、善玉でも悪玉でもない3人の警官役がいい(ケビン・スペイシーもラッセル・クロウも、この作品でブレークした)。復活したキム・ベイシンガーが白いマントの内から見せる成熟した横顔が美しい。カーティス・ハンソンは、いまハリウッドでいちばんノワールの感性を持った監督だと思う。

●『インファナル・アフェア』(2002)
ジョン・ウーがハリウッドへ去って以来ご無沙汰していたけれど、久しぶりに香港ノワールを堪能した。夜の香港。道路をはさんだ雑居ビルの窓越しに、2人の男が対決している。麻薬の売人(実は警官)のトニー・レオンが窓際で指をかすかに動かし、モールス信号で売買現場の情報を送っている。窓越しにそれを解読した警部の指示に、現場を指揮する警官(実はギャング)のアンディ・ラウが情報漏れを組織に流そうとする。薄暗い電灯の下で繰り広げられる無言のドラマ。いい場面だなあ。

絵に描いたような対立と対決。過剰なまでの情感。これでもかと追い打ちをかけるストーリー展開。それが香港ノワールのいいところだ。そんな大げさな身ぶりが気恥ずかしさを感じさせないのは、「かりそめの都市」という香港がもつ歴史の条件のせいなのか。映画は、それを生む都市のエネルギーを映し出す。中国返還後の香港映画は衰退したといわれたが、こんな作品が生まれたことを喜び、これからも香港ノワールに期待する。

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Comments

そうか、『ブレード・ランナー』って、フィルム・ノワールだったのですね。もう何度観にいったか知らないのですが、今更、なるほどなー、と思います。
『LAコンフィデンシャル』は原作共々ノワールの匂いぷんぷんで、好きだなあ(笑)

羨望.....<関係ないけど、私、レッズの駒場スタジアムから歩いて20分ほどのところに住んでます。

Posted by: kiku | August 30, 2004 at 10:33 PM

ノワール・ファンというのは、話してるとお互いその匂いでなんとなく分かりますね。

私、レッズの熱烈なサポーターという訳ではなく、テレビ観戦する程度ですが、去年のナビスコ杯決勝のときは、我が家までサポーターの歌と歓声のうねりが聞こえてきて感動ものでした。

Posted by: | August 31, 2004 at 03:35 PM

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