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August 25, 2004

偏愛映画リスト ファム・ファタール編

珍しく仕事が忙しくて、映画を見る暇がない。音楽を聴く余裕もない。ろくに本も読めない。そんな三重苦が今しばらく続きそうなので、戯れに偏愛する映画のリストをつくってみることにした。

映画は同時代に見ているものにした。僕の場合は1960年代以降ということになる。だから、名画座やヴィデオで見た古典的名作は除外。若いときに見た映画の印象が強烈だから、どうしても60年代、70年代の映画が多くなる。1本は新しい映画(僕にとっては、90年代以降はみんな新しい映画)を入れることにしよう。作品を見直す時間がなく、すべて記憶で書いているので間違いがあるにちがいない。ご容赦を。

ファム・ファタール、訳せば「運命の女」。男を狂わせ、破滅させる女。この女となら地獄に行ってもいいと思わせる、女に対する男の身勝手な幻想を核にした映画。難しいことをいうより、ひとひねりしたスター映画と考えるほうが正解なのではないか。最近のフェミニズム映画批評なんかではこてんぱんらしいが、固いことは言いっこなしで。

●『刺青』(1966)の若尾文子
高校時代、学校帰りに赤羽の映画館で見た。当時、大映は『座頭市』や『忍びの者』『陸軍中野学校』シリーズをやっていたから、そっちを見るつもりで入ったのだと思う。でも、谷崎潤一郎の世界に息づく若尾文子の妖しい美にノックアウトされた。以来、「年上の女」というと、若尾文子の顔が思い浮かぶ。

まだ真面目な高校生だったから、あんなふうに着物をしどけなく着崩した女性に、あの目、あの声で命令調で誘われたらと思うと、これはやばい世界だと思った。にもかかわらず、抗えないほど引きつけられた。増村保造=若尾文子コンビに出会った初めての作品。このコンビには傑作が何本もあるし、若尾が川島雄三と組んだ『女は二度生まれる』も大好きだけれど、ファム・ファタールとしての若尾といえばこの映画に尽きる。

●『小間使の日記』(1964)のジャンヌ・モロー
これも高校時代に新宿文化で見た。その前に、ジャンヌ・モローが人気絶頂のブリジット・バルドーと共演した『ビバ! マリア』を見て、僕はなぜか皺の目立つモローのほうが好きになり、それで見に行ったのだと思う。もちろんルイス・ブニュエルという名前は知らなかった。これも高校生には理解を絶する世界で、ヨーロッパのブルジョアの退廃した空気に初めて触れた。

古い館に住むブルジョア一家の老主人と息子が、小間使のジャンヌ・モローの魅力に引きずりこまれ、やがて権力関係が逆転して、モローの手玉に取られてしまう。老主人が、黒い服に身を固めたジャンヌ・モローの黒ストッキングに包まれたきれいな脚に触れるのを、カメラも好色そうに嘗めるように撮る。靴フェチ、脚フェチがブニュエルの十八番だと知るのは後のこと。への字のようなモローの唇が、笑うと一転して可愛いのがたまらなかった。前後して見た『エヴァの匂い』のジャンヌ・モローも忘れられない。 

●『愛の嵐』(1973)のシャーロット・ランプリング
これは20代になってから見た。シャーロット・ランプリングはチャンドラー原作の『さらば愛しき女よ』で、正統派のファム・ファタールを演じている。でも、「男を狂わせる女」ということでは、こっちのほうが狂気の度が格段に高い。

収容所のナチス将校とユダヤ少女との過去の愛。高名な指揮者夫人になった彼女と、彼女が宿泊するホテルに勤める元将校との現在の愛。二重に倒錯した関係が重なってラストになだれこみ、元将校と部屋に閉じこもったランプリングが砕けたガラスに傷ついた足の血を嘗めてにっと笑う。その危うさに魅せられて、彼女の映画をずいぶん追いかけることになった。最近も『スイミング・プール』などで健在なのが嬉しい。

●『花の影』(1996)の鞏俐(コン・リー)
鞏俐は『菊豆』でも『紅夢』でもファム・ファタール的な要素のある役を演じているけれど、まだ少女の面影を残していた。成熟した女として全身からファム・ファタールの匂いを発するようになったのは『上海ルージュ』『花の影』あたりだろう。一方で歴史ものや中国のお母ちゃんみたいな役柄も多いから、ファム・ファタールとしての鞏俐はこの2本、僕は恋人だった張芸謀ではなく陳凱歌と組んだ『花の影』を好む。

『花の影』の鞏俐は、この映画のなかでも、レスリー・チャンとの愛と裏切りを経験して少女から女へと変貌を遂げる。艶やかなクリストファー・ドイルの映像が、彼女のぞくぞくするような横顔や髪のほつれを際立たせていた。一族の家長として君臨するラストシーンの恐ろしいほどのアップが記憶に残る。その後、あまりファム・ファタール的な役どころがないのが寂しい。秋には『2046』が公開されるが、ウォン・カーウァイが鞏俐をどう撮るのか、楽しみでもあり不安でもある。

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