ジェリ・アレンのスタンダード
ジェリ・アレンのピアノが好きだ。特に自分のなかのエネルギーを掻きたて、元気になりたいときに、魔法みたいに効く。そういうときにかけるのが、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)と組んだ『トウェンティ・ワン』(somethin'else)。
もともとフリー系のピアニストで、そっち方面のミュージシャンと組むことが多かったけれど、この盤は珍しく元マイルス・クインテットの2人の巨匠とのトリオ。これも珍しくスタンダードを12曲中6曲も演奏している。
「ララバイ・オブ・ザ・リーブス(木の葉の子守歌)」が泣かせる。日本人好みのマイナーの曲で、一度聴けばすぐ覚えてしまう哀感あふれるメロディー。名曲「ララバイ・オブ・バードランド」にしろ、子守歌というのはなんてジャズとなじむんだろう。
これをジェリ・アレンは、センチメンタルなところのまったくない音で弾く。ジャズでよく言う「粒立ちのいい音」とは、こういう音を言うのだろう。1音1音がくっきりと立ち上がり、聴く者に突きささる。基調として流れるマイナーなメロディーと、ポキポキした彼女独特のフレーズがブレンドされたアドリブが、いかにもジェリらしい。
そういえば、映画『カンザスシティ』に出た彼女が弾いていたのがこの曲だった。
モンクの曲「イントロスペクション」もたまらない。もともとジェリはモンクが好きで、ポール・モチアンのアルバムに参加した「オフ・マイナー」とか、ラルフ・ピーターソンのアルバムの「ベムシャ・スイング」とか、何度聴いても鮮やかなアドリブで興奮させてくれる。
ここでも、ロン・カーターとトニー・ウィリアムスのオーソドックスかつパワフルなサポートを得て、ジェリは気持ちよさそうにスイングしてる。『ジェリ・プレイズ・モンク』なんてアルバムを、どこかつくってくれないか。
誰もがメロディーを知ってる「ティー・フォー・ツゥー(2人でお茶を)」は、最初から最後まで、すごいスピードで弾ききる。以前、マッコイ・タイナーのライブに行って、人間業とは思えない驚異的な早さに驚いたけれど、この曲の彼女もどんな指使いをするのか、見てみたい気がする。
「イフ・アイ・シュッド・ルーズ・ユー」も、ジャズ・ファンなら必ず聴いたことのある曲。くちずさみたくなるようなメロディーだけれど、ちっともべたつかないのが彼女らしい。
この歳になると、ばりばりのフリー・ジャズはちょっとしんどい。ジェリがよく組むのはフリー系のポール・モチアン、チャーリー・ヘイデンだけれど、このトリオは、よほどこちらにエネルギーがないとCD1枚を聴き通せない。
だから、オーソドックスで、しかも名人級のミュージシャン2人と組んだこのアルバムは、気持ちよく聴けて、しかもジェリの個性が輝いている。トニー・ウィリアムスの轟くようなドラムの嵐のなかで、ジェリの抜き身の刀がぎらりと光るようなアドリブの瞬間が好きだ。
最近、ジェリの新譜が出ない。癒し系のピアノ・トリオ全盛のなかで、彼女のようなピアノは敬遠されているのだろうか。それとも、結婚し、子供を産んで、活動自体が活発でないのか。ちょっと寂しい。
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