イリアーヌの風
このところ毎朝、イリアーヌ・イライアスの『ドリーマー』(BMG)を聴いている。朝起きるとまずCDをかけて、顔を洗ったり食事の支度をしたりする。それが一日の気分を決めたりもするから、けっこう大事な「儀式」。
イリアーヌはブラジル生まれのピアニスト、ヴォーカリストで、このアルバムでもブラジルのミュージシャンと組んでいる。すると、50年代の映画音楽も60年代のポップスも、みんなボサノヴァになってしまうから不思議。
もちろんアントニオ・カルロス・ジョビンの曲も入っていて、はじめから終わりまで、まろやかに熟した果実のようなヴォーカルに、ゆったりした風を感じる。
2曲だけ参加しているマイケル・ブレッカーも、いつものごりごりした音ではなく、ボサノヴァのリズムに柔らかなテナーをのせている。だから、気分は夏の先取り。
イリアーヌのアルバムを買ったのは、91年の『プレイズ・ジョビン』(somethin'else)以来、十数年ぶりのことだ。このアルバムはエディー・ゴメス(b)、ジャック・デジョネット(ds)の強力メンバーとトリオを組んでいたから、ボサノヴァの名曲を素材にした本格的なジャズだった。そのなかで1曲だけ、イリアーヌは素人くさいヴォーカルを披露している。
それが今では、どちらかといえばヴォーカル主体になってしまった。ダイアナ・クラールとか弾き語り全盛だから、彼女もその流れに乗ったということか。そういえば、世界的なベストセラーになったクラールの『ザ・ルック・オブ・ラブ』(VERVE)同様、このアルバムにもストリングスが入っている。
最近のクラールのアルバムではピアノは添えものだけれど、イリアーヌはピアノもしっかり聴かせてくれるのがいい。いかにもブラジル生まれらしい、軽快で心地よい音。
ジャケットがイリアーヌのスナップショット的な顔のアップで、これがまたいい女。『プレイズ・ジョビン』の田舎出の女の子といった風情とは大違い。NYの風に磨かれたということか(彼女はNY在住)。思わず“ジャケ買い”してしまった。
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