「21グラム」の風景
「21グラム」は、ずしんと重い映画だった。
まず、3人の役者がすごい。
心臓病で死を待つばかりの大学教授という役どころのショーン・ペンは、移植手術で九死に一生を得た自分の心臓の元の持ち主を探しはじめる。抑えきれない好奇心から、もらった心臓の元の持ち主である弁護士の妻に近づき、迫る。男のエゴと悲しみを感じさせて、いま、こんなにうまい役者はいない。
亡くなった男の妻はナオミ・ワッツで、交通事故で夫と子供を失った悲しみと、家族を轢き殺した男への復讐心と、近づいてきたショーン・ペンに惹かれる気持ちとの間で、ちりぢりに揺れ動く。郊外のモーテルでのショーン・ペンとナオミ・ワッツのベッドシーンは白昼の光にさらされ、ざらざらした感触の映像がうそ寒い。
ベニチオ・デル・トロが、家族を轢いてしまった前科者を演ずる。彼は前科を悔いて、教会のために働いている。「トラフィック」でこの役者を好きになったけれど、ここでも激しすぎる内面を寡黙な身振りにつつんで、自らを滅ぼしたいという衝動に突き動かされ、いつ爆発するか分からない不発弾のような男を演じている。
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウの演出が斬新だ。
最近、注目されているメキシコの若い監督だが、物語の時間をばらばらにしてつなぎ、ラストシーンにあるはずの映像が最初に来たりする。かつて、ヌーヴェルヴァーグの時代にはよくあった話法だけれど、ハリウッド映画が世界を席巻したこの頃では珍しく、ある種の懐かしさと新鮮さを感じた。
もっとも脚本に関しては、3人がこんなふうにもつれあう現実にありそうもない設定をすれば、話がいよいよ濃くなるのは目に見えている。いささか反則技という気がしないでもない。
僕がこの映画でいちばん心に残ったのは監督の映像感覚であり、舞台となるアルバカーキの町とニューメキシコの砂漠だった。
ニューメキシコといえばラスベガスやサンタフェが有名だが、アルバカーキが舞台になった映画は記憶にない(西部劇であったかもしれない)。
ショーン・ペンとナオミ・ワッツが住む、アメリカのどの都市こもありそうな郊外の高級住宅地。ベニチオ・デル・トロが住むヒスパニック系住民が密集する街区と、チャントが鳴り響く教会。家を出たデル・トロが働く、砂漠のなかの石油採掘(?)現場とモーテル。
それらが粒子の粗い映像で捉えられ、ぞくぞくするリアリティーを醸し出す。映画の最初と最後に、何の変哲もない街角の工事現場の同じ風景が二度、映しだされる。そのざらっとした感触が記憶に残る。
Comments
TB返しありがとうございます。
ベニチオ・デル・トロ「不発弾のような男」、言えてます!その通りですね。
アモーレス・ぺロスはごらんになっておられますか?
Posted by: sheknows | April 12, 2005 06:24 PM
>sheknowsさま
残念! 『アモーレス・ペロス』は見ていません。気になっているので、探してみようと思ってます。
先日、『プレッジ』を見直したら、デル・トロはこれにも出ていたんですね。障害のある先住民役で、ちょっと見には分からなかったです。
Posted by: 雄 | April 14, 2005 06:54 PM