November 20, 2024

『THE 新版画』展

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わが家から歩いて10分ほど、うらわ美術館で開かれている『THE 新版画』展(~1月19日)へ。以前に千葉市美術館で見たものだけど、川瀬巴水の夜の作品群をもう一度見たくて。

展示室の最初に、昭和初期の地元さいたま市を素材にした「大宮見沼川」が展示されている。これも夜の風景。闇のなか、見沼用水に蛍が舞っている。空に星。屋敷林のなかに茅葺き農家が1軒。光が漏れ、川面に揺らめいている。真っ暗になる直前、わずかに藍味が残る墨色の風景が美しい。

巴水はもちろん夜の風景ばかりじゃないけれど、藍と墨には特に惹かれるなあ。(写真は巴水「出雲松江」)

 

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November 18, 2024

『密航のち洗濯 ときどき作家』

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宋恵媛・望月優大『密航のち洗濯 ときどき作家』(草思社)の感想をブックナビにアップしました。

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October 18, 2024

『二つの季節しかない村』

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冒頭、まだ映画が始まらない黒いスクリーンに、かすかな音が聞こえる。映像が映し出されると一面雪の白い原野。聞こえていたのは雪の降るかすかな音。バスがやってきて1人の男が降り、雪原を歩きはじめる。男は小学校教師のサメット(デニズ・ジェリオウル)で休暇から帰ってきたところ。場所はトルコ東部アナトリアの、冬と夏の『二つの季節しかない村(原題:Kuru Otlar Ustune/英題:About Dry Grasses)』。映画のほとんどが雪の季節に繰り広げられる。白く閉ざされた村や雄大な冬山と渓谷。見る者を圧倒する風景のなかで、なんとも人間的なドラマが語られる。その対照というか、壮大と卑俗の取り合わせが面白い。

サメットは辺境の学校で働かされるのが不満。都会へ戻りたいと願っている。でも教室では王様で、女生徒のセヴィムを贔屓し、彼女に鏡のお土産をあげたりする。持ち物検査でセヴィムのカバンから、その鏡とラブレターが見つかる。手紙を返す返さないでひと悶着あったあと、セヴィムは校長に、サメットから「不適切な接触」があったと訴える(サメットのセヴィムへの身体的接触は描かれないが、心理的には「支配的」言動がある)。

一方、サメットは美しい英語教師ヌライ(メルヴェ・ディズダル)と知り合う。彼女は左派グループに属し、爆弾事件に巻き込まれて義足だが、教師としてこの地でやるべきことがある、と情熱的に語る。サメットは同僚教師ケナンにヌライを紹介するが、ヌライとケナンがつきあうようになると、今度は二人の仲を裂くようにヌライとベッドを共にしたりする。ヌライの家で、この地を嫌い自分のことしか考えないサメットと、まっとうに生きようとするヌライが交わす長い長い会話が印象的。この後、サメットが部屋を出ると、部屋は実は撮影現場につくられたセットで、サメットはセットの裏にいるスタッフの脇を通り手洗い所まで行って鏡を見るという長いワンショットが続くのに驚いた。かつて今村昌平の『人間蒸発』で、クライマックスで監督がセットを壊すよう指示して撮影現場そのものが映し出され、ドキュメンタリー的な映画が実はフィクションでもあるという構造を露呈させたことがあった。サメットとヌライがベッドを共にする直前のショットだから、これは二人を見ている観客の感情の高まりに水を差すことを意図したのか。これはそういう映画じゃないよ、と。服を脱いだヌライは、義足をはずし切断された脚をサメットに見せる。

サメットは最後、望み通りこの地を去ることになるのだが、サメットにとって辺境での4年間は何だったのだろう。東アナトリアはクルド民族が多く住む地域で貧しく、独立運動もあって中央政府から敵視されている。この地で生きるしかない少女セヴィムや村の人々、また英語教師ヌライとの交流も、サメットには何の影響も与えなかった。彼はただ通りすぎるだけだったのか。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は、壮大な雪の風景のなかにサメットという男をぽんと放り出したように見える。

 

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October 17, 2024

『虚史のリズム』を読む

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奥泉光『虚史のリズム』(集英社)の感想をブック・ナビにアップしました。

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October 15, 2024

紫蘇の実塩漬け

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紫蘇の実がたくさん採れたので、塩漬けに。今年は天候のせいか、手入れをきちんとしなかったせいか、ゴーヤは豊作、ミニトマトは不作だった。

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October 12, 2024

『cloud クラウド』

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 いま、この国を覆っている空気、例えば電車に乗っている乗客が、自分のバリアを犯されたと感ずるときに取るささいな行動や表情、能面のような無表情の陰の敵意や無関心や苛立ちや舌打ちを極大化させれば、こういう映画になるだろうか。『cloud クラウド』は黒沢清らしい不安とサスペンスとアクションを堪能させてくれた。

 クリーニング工場で働く吉井(菅田将暉)は、ネットの「転売ヤー」としての顔も持つ。昇進させようとする社長(荒川良々)の期待に背いて工場を辞めた菅井は、恋人(古川琴音)と田舎の一軒家に移り、本格的に転売ヤーとして生きていこうとする。が、その身辺に怪しい影が出没し、何者とも知れない集団に襲われる……。
 
 設定としては定番だけれど、ネットを介したところが今どき。吉井のハンドルネームから本名が暴かれ、彼に敵意をもつ互いに知らぬ者同士が集まって集団を組むのは、昨今頻発する闇バイトによる強盗事件を連想させる。転売ヤーの先輩(窪田正孝)や、吉井に痛めつけられた青年(岡山典音)、吉井を恨む社長、吉井を助けることになるバイト青年、果ては恋人まで、皆が裏の顔を持ち、人間がねじれている。最後のほうになると、怪しげな商売に従事し、ニヒリストで他人を一切信用しない吉井がいちばんまともに見えてくるのが面白い。


 前半は心理的サスペンス、後半は廃工場を舞台にしてのアクションで、どちらも黒沢清らしさが充満。

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September 18, 2024

山田重郎『アッシリア 人類最古の帝国』

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山田重郎『アッシリア 人類最古の帝国』(ちくま新書)の感想をブック・ナビにアップしました。

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August 28, 2024

『フォールガイ』と『ツイスターズ』

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これだけ暑さが続くと、本を読んだりシリアスな映画を見るのが億劫になる。というわけで、楽しめそうな映画を2本つづけて見た。どちらもハリウッド映画だけど、これが当たり。2本とも映画館の大スクリーンで見てこその面白さだ。

『フォールガイ(原題:The Fall Guy)』は、スタントマンが主役のバックステージもの。大スター、トム(と言えば誰もアノ人を思い浮かべます)のスタントを務めるコルト(ライアン・ゴズリング)が映画製作をめぐる事件に巻き込まれる。怪我でスタントをやめたコルトが、元カノのカメラマン(エミリー・ブラント)が初監督作を撮るというので撮影現場に呼び戻される。現場に行くと主演のトムが行方不明。スタント・シーンを撮影しながらトムを探す羽目になる。

撮影現場でも、トム捜しでも、格闘、飛び降り、衣装に火をつけてのアクション、車を衝突させての7回転、カーチェイス、モーターボートでジャンプ、ヘリにぶらさがりなど、ありとあらゆるアクション・シーンを見せてくれる。なるほどこんなふうに撮ってるのかと、裏側が分かるのも面白い。ラスト近く、姿を現したトムがVFXの合成用ブルーバックの中で四駆を運転する演技をしていると、そこにコルトが現れて運転を代わり、実際にエンジンを始動させブルーバックを突き破ってロケ現場に飛び出してしまう。トムが悲鳴をあげる。VFX全盛のいま、ブラッド・ピットのスタントマン出身というデヴィッド・リーチ監督が、いつかやりたかったことなんだろうなあ。事件や恋はアクション・シーンのための刺身のつまみたいなもの。ライアン・ゴズリングが能天気なスタントマンを楽しそうに演じてる。

もう一本は『ツイスターズ(原題:Twisters)』。オクラホマの巨大竜巻を追うストーム・チェイサーたちの物語。NYのアメリカ海洋大気庁で働くケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は、かつての仲間ハビ(アンソニー・ラモス)の頼みで夏休みに故郷のオクラホマに帰ってくる。大学時代、ケイトやハビは竜巻の力を削ぐ方法を実験していたが、竜巻に巻き込まれて仲間3人を失い、ケイトは今もそのトラウマに悩まされている。ハビは住宅開発業者の支援を受け、竜巻追跡チームを組織している。彼ら以外にも、竜巻を追いかけてSNSで中継しインフルエンサーとなったタイラー(グレン・パウエル)のチームがある。竜巻が発生すると、2つのチームは車をつらね、どちらが先に竜巻に近づけるかを競う。ケイトははじめハビのチームに加わるのだが、社会貢献ふうな企業チーム対竜巻をネタに金にする地元チームと見えたものが、、、。このあたりの対立やケイトとハビ、タイラーの微妙な三角関係は、『フォールガイ』を同じで刺身のつま。やはり巨大竜巻が次々に生まれ、町を破壊していくあたりが見せ場だ。こういう題材を娯楽映画にしてしまう腕には感心する。

2本とも大人の鑑賞にたえるエンタテインメント。日本映画でもこういうのがほしいなあ。

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August 19, 2024

『モスカット一族』を読む

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アイザック・B・シンガー『モスカット一族』(未知谷)の感想をブック・ナビにアップしました。

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August 16, 2024

『夜の外側』

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マルコ・ベロッキオ監督『夜の外側(原題:ESTERNO NOTTE)』は、上映時間5時間40分のイタリア映画。午前11時から始まり1時間の休憩をはさんで、終わったのは午後6時近かった。

題材は、1978年にモーロ元首相が左翼グループ「赤い旅団」に拉致・殺害された事件。もともとテレビ用に企画されたもので、6話のエピソードからなる。

といって事件そのものを、あるいはその「事実」や「真実」を描くのではない。冒頭、現実には殺害されたモーロが解放され病院に収容されるシーンが出てくるように、現実と、ありえたかもしれない現実が入り混じった、虚実皮膜のドラマ。6話それぞれが、捜査を指揮する内務大臣、モーロとも親しいローマ教皇、「赤い旅団」のシングルマザーのメンバー、モーロの妻、そしてモーロ本人の視点から語られることで、それぞれの立場の苦悩が見えてくる。モーロを父と仰ぐ内務大臣の逡巡や、身代金を準備した教皇庁、リーダーの方針に異を唱える「赤い旅団」メンバー、政府と党を批判するモーロの妻の毅然とした姿勢、などからは、殺害という結末でなく、別の、ありえたかもしれない現実の種子も見て取れる。解放されたモーロがベッドでうっすら目を開き、面会したアンドレオッティ首相(妥協を拒否した強硬派)、党の書記長、内務大臣を何とも形容しがたい眼差しで見やる。映画を見終わって、冒頭の、ありえたかもしれない現実のショットが思い出された。

ゆったりしたリズム、しかし緊張の持続する画面。堂々たる映画で、5時間40分を長いとはまったく感じなかった。映画漬けを楽しんだ一日。

 

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