October 29, 2020

『ブラッドライン』2人の老優

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ネットフリックスのオリジナル・ドラマ『ブラッドライン(原題:Bloodline)』を見ようと思った理由はふたつ。ひとつは、サム・シェパード、シシー・スペイセクという1970~80年代のアメリカ映画で活躍した役者が出ていること。サム・シェパードは『天国の日々』や『ライトスタッフ』、シシー・スペイセクは『三人の女』『ミッシング』といった、作品としても見事な映画で深く印象に残っていた。

もうひとつはフロリダ半島沖の島々、フロリダキーズが舞台になっていること。半島にいちばん近い島キーラーゴはハンフリー・ボガート、ローレン・バコールの同名の映画で有名だし、いちばん遠い島キーウェストはヘミングウェイが暮らしたことで知られる観光地。十数年前、半島からフロリダキーズを貫いて海の上を走る道路を通ってキーウェストまで旅行したことがあるので懐かしかった。

サム・シェパードはシーズン1の6作目で死んでしまうけれど、年老いても相変わらず恰好いい。白髪になっても若き日の精悍な顔と独特のしゃべり方は健在だ。シシー・スペイセクはこのドラマを貫く影の主役といってもいい役どころで、中年になった子供たちの葛藤に悩む老母役にどんぴしゃり。ふたりを堪能できる。

サム・シェパードとシシー・スペイセクの夫婦がフロリダキーズの島でリゾートホテルを成功させ、地元の名士になっている。彼らには4人の子供がいて、長男(ベン・メンデルソーン)は島を出て行方不明。次男(カイル・チャンドラー)は郡警察の刑事。三男は港で船舶業をやり、末っ子の娘は弁護士。行方不明になっていた長男が島に舞い戻るところから物語が始まる。長男はどうやら犯罪グループと関係ありそう。長男が島を出たのは、過去に家族間でトラブルがあり、そのせいらしい。舞い戻った長男はホテルを手伝い、シシー・スペイセクの母親は彼を溺愛する。海で発見された少女の殺人事件と長男が絡む犯罪、家族の秘密をめぐって毎回、少しずつ彼らの過去が分かってくる。

アメリカの1時間ドラマは手法が開発されつくしていて、たくさんの素材を詰めこみ短いカットを積み重ね展開もものすごく早いけど(かつての『24』とか今も日本で放映されてる『CSI』シリーズとか)、このドラマはゆったりと、会話なども比較的長いショットで家族それぞれのキャラクターや関係を描く。それがフロリダキーズの美しい景色と相まって、じりじりと緊張が高まってゆく。舞い戻った長男を演ずるベン・メンデルソーンが時に犯罪者の狡猾な顔、時に母親に甘える無垢な子供を装ったりして秀逸。いかにも善人顔の次男カイル・チャンドラーが兄との葛藤から犯罪に巻き込まれてゆくのがどうやら物語の軸になるようだ。まだシーズン1を見終えたところ。

もっともこのドラマ、シーズン5まで予定されていたのがネトフリの視聴回数が上がらず、シーズン3で打ち切られたらしい。とはいえ、シシー・スペイセクとフロリダキーズの景色に惹かれて最後まで見てしまうだろうな。

 

 

 

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October 20, 2020

鬼海弘雄さんを悼む

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写真家の鬼海弘雄さんが亡くなった。

鬼海さんから携帯に電話がかかってきたのは6月17日のことだった。その日付をなぜ覚えているかというと、昨年秋に悪性リンパ腫が寛解した後、再発がないかどうか調べるため病院で定期検査を受けていたからだ。ちょうど会計を済ませたところに呼び出し音が鳴った。その数カ月前、抗がん剤治療中に自費出版した本を鬼海さんに送り、その中で病気について触れていた。

携帯を耳にあてるといきなり、「私、山崎さんと同じ病気なんですよ」と、いつもの鬼海さんの声が聞こえてきた。悪性リンパ腫は血液のがんなので手術はできず、抗がん剤治療が中心になる。聞くと最初の抗がん剤の効果がはかばかしくなく、別の薬を使って入院中らしい。といっても声の調子からは元気な様子で、同じ病気仲間としてエールを交換した。今年1月、渋谷での「や・ちまた」展に鬼海さんは病院から姿を見せたようだが、そのとき会えなかったので少し安心した。

鬼海さんから「トルコに行きたいんです」と相談されたのは、『アサヒカメラ』編集部にいた1996年の秋だった。『王たちの肖像』や『INDIA』に感銘を受けていたので、一も二もなく承知した。2カ月の取材のうち最初の1週間だけ、編集部のSさんに同行してもらうことにした。そのときの作品は1997年4月号に「アナトリア紀行」として16ページ掲載されている。Sさんは同行記で、鬼海さんのこんな言葉を記録している。「人を撮るには絶対的に相手を肯定しなきゃ。第三者になって分析するんじゃなくて、対象の中に自分自身が見えなきゃ、おもしろくない」。これは浅草を舞台にしたポートレートでも、インドやアナトリアのスナップでも、また東京の風景を撮っても共通する鬼海さんの基本的な姿勢だろう。

その後、暑くなったころにまた電話がかかってきた。声に以前より張りがないのは気になったけれど、「まだ写真集を2冊、つくりたいんですよ」と意欲は満々だった。出版社とも話がついたという。「1冊は東京の風景で、タイトルも決めた。あと少し撮りたせばできるんですけどね。早く東京を歩きたい」というのが、鬼海さんから聞いた最後の言葉だった。「そうしたらまたSさんと3人で、いつかみたいに神楽坂で飲みましょう」と約束したのだが、その約束も果たせなくなってしまった。合掌。

 

 

 

 

 

 

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October 18, 2020

『苦海浄土 全三部』を読む

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石牟礼道子『苦海浄土 全三部』(藤原書店)の感想をブック・ナビにアップしました。

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October 16, 2020

白幡貝塚跡

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わが家から2キロちょっと南へ歩くと白幡貝塚跡がある。現在は広い駐車場になっていて、案内板などはない。誰もここに貝塚があったとは気づかないだろう。さいたま市埋蔵文化財のデータを見ると、奥東京湾がこのあたりまで入りこんでいた縄文前期のもので、汽水に生息するヤマトシジミや淡水に生息するマシジミが出ている。谷筋に入りこんだ海水が真水とまじりあい、シジミが採れたんだろう。

ここは大宮台地南端にある舌状の高台。南(東京方向)へ歩くとすぐに急な下り坂がある。このあたりが縄文前期の浜辺だった。東へ200メートル行くと旧中山道が走り、すぐ西には縄文の植生が残る睦神社がある。さらに西へ500メートル行くと谷筋をはさんで国道17号が走り、先日訪れた真福寺貝塚がある。

毎日1時間の散歩をするけれど、わが家から片道30分、半径2キロあたりがちょうど大宮台地の南端、縄文前期の浜辺にあたる。これで3つある貝塚を制覇。貝塚だけでなく、半径2キロ圏の道はだいたい歩きつくした。市内にもっとある貝塚へ行くには歩く距離を伸ばさなければならない。少しずつ体力も戻ってきたし気候もよくなってきたので、次は半径3~4キロに挑戦しようか。

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October 13, 2020

『文学界』のジャズ特集

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文芸誌を買うのは何年ぶりだろう。いや、十数年ぶりかもしれない。『文学界』の「JAZZ×文学」。150頁ほどの「総力特集」。ジャズ好き、あるいはジャズを演奏する作家と、小説やエッセイも書くジャズ・プレイヤー二十数人が登場している。

3つの対談が面白かった。山下洋輔vs菊地成孔。菊地が、ジャズと文学が交わった2大文化圏として「筒井康隆・山下洋輔文化圏」と「村上春樹文化圏」を挙げてるのは、両文化圏に惹きよせられた身として納得。奥泉光vs平野啓一郎。60代の奥泉も40代の平野も、マイルス~コルトレーンと王道からジャズに入ってるんだな。岸政彦vs山中千尋。ベーシストでもある岸が、若き才能・山中のピアノの秘密を聞き出してる。

小説は筒井康隆と山中千尋の短篇2つ。エッセイは岸政彦。巻頭は、スタン・ゲッツについて村上春樹のロング・インタビュー。これだけ分量のある特集は、さすがに読みごたえがある。特集以外では映画『スパイの妻』をめぐって黒沢清(監督)、濱口竜介(脚本)、蓮實重彦の鼎談がよかった。ああ、早く映画館やライブに行きたい!

 

 

 

 

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October 10, 2020

『ダブル・サスペクツ』 地方都市の日常 

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『ダブル・サスペクツ(原題:Roubaix, une Lumière)』をDVDで見た。劇場未公開のフランス映画。wowowで『ルーベ、嘆きの光』のタイトル(このほうが原題に近い)で放映されたことがある。アルノー・デプレシャン監督の故郷である北フランス、ベルギー国境で人口10万足らずの小さな町ルーベを舞台にした作品。

町の警察署長ダウード(ロシュディ・ゼム)が車を運転しながら、路上で燃えている車を見つける場面から始まる。警察では、通報を受けてパトカーが出動している。バーの喧嘩。強盗。貧困地区のアパートで放火。娘の失踪。路上で炎上していた車の持ち主が、外国人にやられたと訴えにくる(保険金目当ての狂言)。

町にはイスラム教徒やアフリカ系移民が多い。ダウードもこの町で育ったアラブ系フランス人。一人暮らしで、家族は北アフリカ(アルジェリアだろう)へ帰った。刑事が少ないので、彼自身も現場に出かけ、当事者の話を聞く。仕事が終わるとホテルのバーで孤独に過ごす。賭けはしないが競馬が好きで、馬を買おうとしている。甥はイスラム過激派と関係したらしく収監されている。住民の多くと顔見知りである温厚な警察官ダウードの目を通して、ルーベの町が描かれる。

いくつもの出来事のなかから、放火事件に焦点がしぼられてくる。焼けたアパートから殺された老女が発見される。隣家に住む女性カップル、クロード(レア・セドゥ)とマリーが嘘の証言をしたことから、2人に疑いがかかる。映画の後半、署長のダウードを中心に2人の証言の矛盾をつきながら真相がわかってくる。といって、大きな謎や驚く事実があるわけではない。財布と日用品を盗み、はずみのように老女を殺してしまう。映画的な興奮はない。

淡々とした描写から浮かびあがるのは、移民が多く、貧困層も多い地方都市の日常。そんな町に起きる出来事を署長として日々処理するダウードは最後、馬を買うことを決め、その馬が走る姿を観客席から見つめる。デプレシャン監督は、特定の誰かでなく町そのものを描きたかったんだろう。そこに「une Lumière(光)」とタイトルをつけたあたりに、監督の目線がうかがえる。レア・セドゥが貧しいシングルマザーをすっぴんで演じているのが魅力的。

 

 

 

 

 

 

 

 

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October 07, 2020

民家の蕎麦屋

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散歩で手づくりの看板を見るたび気になっていた蕎麦屋にようやく入った。

常盤公園近くの「あまの」。路地のどんづまりにある住宅がそのまま店になっている。ふつうの民家のドアを開け、玄関で靴を脱いで左に入るとダイニングと続きのフローリングの3畳間に4つテーブルが据えてある。3畳間には蕎麦打ち台もある。営業は週に5日で、昼は20食限定。夜は予約があるときのみ営業。何度か来たのだが、いつも閉まっていた。店は上品な老紳士が一人でやっている。おそらく十数年前は実直な勤め人だったんじゃなかろうか。

せいろは一人前で二枚。今日は桧枝岐と会津山都の蕎麦。量も十分で満足しました。

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October 02, 2020

浦和の海抜最高地点

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わが家から旧中山道に出て南に歩き、浦和駅をすぎて調宮(つきのみや)手前の古書店前に球形に盛り上がった石標が埋め込まれている。ここが浦和の海抜最高地点で16.0メートル。

浦和は大宮台地の南端に位置する。見た目は平坦な市街地だけど、歩いてみると小さな坂がたくさんある。台地南端のこのあたりは南北方向に尾根筋と谷筋が入り組んで複雑な地形をつくっている。いちばん高い尾根筋を旧中山道が走り、その西の尾根筋を昭和になってつくられた国道17号(祖父母は「新国道」と呼んでいた)が走っている。

この石標があるあたりは、道がほんのわずか盛り上がっている。100メートル先の調宮の海抜は地形図によると15.9メートルだから、わずか10センチの高低差。旧中山道をさらに南へ、東京方向へ歩くとほぼ平坦な道がつづく。地下を武蔵野線のトンネルが走っているあたりを過ぎると急な下り坂になる。坂を降りきったあたりの海抜は7メートル。最高地点の石標との標高差は9メートルある。

海面が上昇した7000年前、この坂のあたりが奥東京湾の海岸線だった。旧中山道を下り坂の手前で右に折れると貝塚や縄文の植生を残した神社がある。海は谷筋に沿って台地に入り込み、リアス式の複雑な海岸線をつくっていた。木崎(「崎」は海に突き出た岬)とか根岸とか、海浜にちなんだ地名も残っている。そもそも「浦」和だし。いまはすっかり市街地になっているが小さな高低差を意識して歩きながら、古東京湾の彼方に富士が見えただろう縄文の風景を想像してみる。

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September 19, 2020

『証言 沖縄スパイ戦史』を読む

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三上智恵『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社新書)の感想をブック・ナビにアップしました。

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September 18, 2020

『ジ・エディ』 ヨーロッパ風味のジャズ

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ネットフリックスのドラマ『ジ・エディ(原題:The Eddy)』でヨーロッパ風味のジャズをたっぶり楽しんだ。全8話のうち2話を『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルが監督している。

パリでジャズクラブ「ジ・エディ」を経営するエリオット(アンドレ・ホランド)は、かつてアメリカで嘱望されたアフリカ系のピアニストだったが今は演奏をやめ、ハウスバンドを売り出そうとしている。別れた白人の妻と暮らしていた娘のジュリー(アマンドラ・ステンバーグ)がニューヨークからやってくる。そんなとき、共同経営者でアラブ系のファリドが何者かに殺される。どうやらギャング組織とトラブルになっていたらしい……。

そんなストーリなのだが、毎回、ジャズの演奏をたっぷり聞かせてくれるのが嬉しい。エリオットが育てているハウスバンドがいろんな国からやってきた民族の混成グループで、アメリカのジャズとはテイストが異なる。よりワールド・ミュージックに近いというか。メンバー全員が役者でなくプロのミュージシャン。ピアノはアメリカのランディ・カーバー(彼は劇中の曲も提供している)。トランペットはアフリカ系フランス人。サックスはハイチ出身、ベースはキューバ出身、ドラムスの女性はクロアチア出身。そしてエリオットの恋人でヴォーカルのマヤを演ずるヨアンナ・クーリクはポーランドの女優・歌手。一昨年公開された『COLD WAR あの歌、2つの心』でもジャズを歌っていて、僕はその歌と、レア・セドゥに似た風貌にしびれてしまった。ちょっと挑戦的な目つきをすることがあって、それがたまらない。

毎回、主な出演者の誰かに焦点を当てる構成。パリ市内だけでなく、移民が多く住む郊外の団地が舞台になるのもリアリティがある。もっとも、ドラマとしては質の高い作品が多いネットフリックスのなかでは、いまひとつ。でもジャズ好きなら間違いなく楽しめます。僕はヨアンナ・クーリクの歌を聞いているだけで満足でした。

 

 

 

 

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