May 20, 2026
May 13, 2026
『シンプル・アクシデント│偶然』
『シンプル・アクシデント│偶然』は、2度にわたって投獄され、映画製作と外国への渡航を禁止されているイランの映画監督、ジャファル・パナヒ監督の新作。当然、無許可で撮影されているけれど、これが素晴らしい。強権的な政治体制の下で市民が味わっているだろう恐怖と、その裏返しの憎悪が、見る者にひりひりとその皮膚感覚まで伝わってくる。
反体制的と見なされ投獄されたことのある職人のワヒド(ワヒド・モバシェリ)が、偶然に車の故障に居合わせたことから、車を運転していた義足の男(エブラヒム・アジジ)がかつて自分を尋問・拷問した看守ではないかと直感する。燃え上がった復讐心で男を拉致するが、砂漠へ生き埋めにしようとしたところで、当時、目隠しされ男の顔を見ていないことから、本当に自分を拷問した男なのか疑念が生ずる。確証を得ようと同じく投獄された仲間たちを訪ねるのだが、それぞれに普通の市民生活を送っている彼らの思いがもつれあって……。
ワヒドは、成り行きから男の出産直前だった妻の入院費用を立て替えてしまうお人好し。ワヒドが最初に相談する知的な友人は、「彼らと同じ人殺しに成り下がるのか」と諫める。女性カメラマンとして働くシヴァは、「私はやっと日常を取り戻したんだ」と協力を拒む。シヴァの元恋人の男は、「俺が吐かせて、こいつの息の根を止める」とわめきちらす。シヴァの妹で結婚式を控えたゴリも、「あいつに人生を滅茶苦茶にされた」と男を追及する。ゴリの結婚相手であるアリは、「忘れろ。深みにはまってみんな沈むぞ」と傍観する。
登場人物の思いが交錯し、互いに矛盾するそれぞれの思いに「そうだよなあ」と共感を感じてしまう。ひとりひとりが丁寧に描写されているからだろう。そんななかで、ふっとユーモラスなショットがあったり、ひと気ない暗い高地から遥か遠くに輝く町の灯りのショットが素晴らしい。重いテーマでありながらサスペンス映画としても楽しめる。町なかのショットが多く車のなかから撮られているのは、撮影を気づかれないためだろう。この作品はカンヌはじめ色んな映画祭で受賞しているが、昨年12月、イランの裁判所は監督に三たび懲役1年の刑と2年の渡航禁止を言い渡したという。
May 06, 2026
May 05, 2026
『LOST LAND/ロストランド』
『LOST LAND/ロストランド』は、ミャンマーで迫害されているロヒンギャ族がバングラデシュ、タイ、マレーシアと安住の地を求めて密航する旅の映画。劇映画ではあるけれど、綿密な取材と、演ずるのはすべてロヒンギャ難民、現地での撮影と、ドキュメンタリー的な要素をたくさん持ち、そこから生まれるリアリティに息をのむ。なにより主役である9歳のソミーラ、5歳のシャフィの姉弟(実際に難民の姉妹)が素晴らしい。演じているとは思えない自然さで笑い、遊び、歩き、逃げ、見つめる。その瞳の力が心に残る。彼らが旅する海や雲や稲妻、マレー半島の緑も生々しい。夜のショットは余分な照明を使ってないのだろう、何かが動いてるのが分かるだけの暗闇で、これもまた印象的。
バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプから、姉弟とその叔母が密航業者に金を払って家族のいるマレーシアを目指す。小さな船でベンガル湾を南下し、タイ南部に上陸して陸路マレーシアに入るルート。海上で嵐に見舞われ、上陸時に巡視船に見つかり、国境の金網を突破したところで警備兵に発砲される。更なる金を要求され密航業者に監禁されたり、殺される者もいる。一行は散り散りになり、姉弟は二人きりになる。とはいえ二人が遊ぶショットが何度も挿入される。かくれんぼや「だるまさん転んだ」の、僕らが子供の頃やったのと同じ遊び。それが冒頭、旅の途中、ラストシーンと出てきて映画の芯になっている。難民可哀そう、という映画になっていないのは、そんな視線があるからだろう。
脚本・監督・編集を務めた藤元明緒を中心に、スタッフは日本、マレーシア、ヨーロッパ、資本は日本、マレーシア、ドイツ、フランスとボーダーレス。映画の中身も、製作のあり方も、これからこういう映画が増えていくんだろうな。
April 26, 2026
April 21, 2026
「ひらけ、絵手本 『北斎漫画』」展
「ひらけ、絵手本 『北斎漫画』」展へ(~5月24日、両国・すみだ北斎美術館)。「絵手本」とは、江戸時代に絵を学びたい人のためのお手本をそう呼んだ。その代表が『北斎漫画』。もとは北斎が入門した弟子の教育用に描いたらしいが、市販されてベストセラーになった。いろんな機会にその一部を印刷で見ることはあったけど、15巻あるその全体像は知らなかった。
ともかく色んなスタイルの「手本」がある。一筆書き、平仮名を使った文字絵、コンパスと定規を使ったもの、武者絵、人間のいろんな動作を描いたもの、職人のためのデザイン集、江戸小紋の文様、「富嶽百景」の風景などなど。ともかく北斎の無限とも思える好奇心とエネルギーに圧倒される。その影響力は大きく、同時代の絵師が、自分の絵の一部に『漫画』を引用したり、『漫画』の絵を使ったウェッジウッドの陶磁器も展示されている。
別のフロアの「北斎を学ぶ部屋」では、北斎の代表的な版画を高精細デジタルで復元したものを見ることができる(キヤノンの協力。見事な出来栄え)。『北斎漫画』の復刻本を手に取って見ることもできる。はじめて行った美術館だけど、たっぷり楽しめた。
April 20, 2026
April 19, 2026
銀座から国会前へ
まず銀座で「木村伊兵衛写真賞特別企画 今森光彦・大西みつぐ・澤田知子・長島有里枝写真展」(~4月23日、ソニー・イメージングギャラリー銀座)へ。今年の木村伊兵衛写真賞作品展に先立って、賞の選考委員4人による特別展。4人とも、過去の木村伊兵衛賞受賞者でもある。スナップショットからネイチャー・フォト、家族写真やコンセプチュアルなものまで、木村伊兵衛賞の幅の広さと、それぞれスタイルは異なっても写真でしか表現できないものを見せてくれている。来週の受賞作品展、濵本奏「-・・(チョー タン タン)」が楽しみ。
銀座から地下鉄で国会前へ。「NO WAR! 憲法変えるな! 4・19国会正門前大行動」に参加。国会前の道路と左右の公園に36000人(主催者発表)が集まった。旗を持った団体の参加者もいるけど、それ以上に個人で参加した人たちが多いと感じた。小生のような年寄りから若い男女までさまざま。思い思いの手作りプラカードや団扇を手に「戦争するな!」「憲法変えるな!」と声を上げた。
April 10, 2026
大ゴッホ展
福島県立美術館で開かれている「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」(~5月10日)へ日帰りで出かけた。展覧会はこの後、東京でも開かれるが、大阪の友人から昨年の神戸展が「ものすごく混んでた」と知らされたのと、東京の知人が福島へ行って見てきたと知り、ゴールデンウイークや会期末が近くなる前にと出かけた。市街はずれの山裾にある、広々と開けた気持ちのよい美術館。平日午前中とはいえ入場するのに10分ほど並び、会場はかなり混んでいる。
クレラー=ミュラー美術館所蔵品で構成される展覧会は2期に分かれ、今回はゴッホの画業の前半。オランダ時代、パリ、そしてアルルへ来たあたりまで、時間と場所を追って年代別に展示されている。これまでゴッホの絵はいろんな場所でいろんな機会に見ているけれど、これだけまとまったものを系統的に見たのは初めて。それが面白かった。
印刷で何度も見ている「じゃがいもを食べる人々」は油彩でなくリトグラフ。オランダ時代の農民や職人を描いた作品は画家の誠実な人柄を想像させる堅実なものだけど、後のゴッホを思わせる大胆なデフォルメも現れはじめている。パリへ出て印象派の画家たちとの交流があり、それまで暗く地味な画面が色彩豊かに変貌する。花や風景の官能的な色使いに、ゴッホはこんな色も使うんだと新鮮だった。南仏へ移住し、「夜のカフェテラス」をはじめとするアルルの絵に漂う幸福感。晩年の絵を知っているだけに痛ましくもある。二十数年前、カミさんとアルル・フォトフェスティバルへ行ったとき、描かれたカフェテラスや郊外に復元された跳ね橋を訪れたのを思い出した。
常設展では、ゴッホに影響を受けた日本の画家の作品も。岸田劉生、村山槐多、白河出身の関根正二らの作品が展示されていた。来年開かれる後期の展覧会も神戸、福島、東京開催。さて次はどこで見ようか。












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