January 12, 2018

『レディ・ガイ』 知的B級映画

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The Assignment(viewing film)

ミシェル・ロドリゲスをはじめて見たのは『マチェーテ』だった。『マチェーテ』は、1960~70年代にアメリカで山のようにつくられた「グラインドハウス」というB級映画(タランティーノがこれで育ったことは有名)を蘇らせた作品。強い男と色っぽい女、すぐに銃をぶっ放し、ストーリーは単純。アメコミのテイストをもったアクション映画だった。ミシェルは革命派の女闘士役で、黒皮のパンツにタンクトップ、機関銃を手に大暴れしていた。どうやら、この映画で彼女のイメージが決まったみたい。

『レディ・ガイ』もまた意識的にB級映画のテイストをもち、ミシェルの役どころも似たようなもの。ただしウォルター・ヒル監督の映画だけに、ひとひねりもふたひねりもして香辛料が利いている。

ひとつめのひねりは、主人公はもともと男だったのに性転換手術を施され女になってしまったとの設定。殺し屋のフランク(ミシェル・ロドリゲスが男装)は、彼が殺した男の姉で性転換手術の名医レイチェル(シガニー・ウィーバー)の罠にはめられ、復讐のため手術を施され、場末の安ホテルで気がつくと女になっている。

奇想天外な設定。ウォルター・ヒルは、共同脚本のデニス・ハミルの原案を読んだとき、これはすごいB級映画になるぞと長いこと企画を温め、フランスでグラフィック・ノベルにして刊行してもいる。元男という設定だから、ミシェルは歩き方、表情のつくり方、発声も男の演技をする。顔の包帯をはずし、手術着を脱ぐと女になっていてうろたえるシーンは倒錯的なエロティシズムを発散する。女になったフランクが、自分をこんなにしたレイチェルと、罠にはめたギャングに復讐を挑むハードボイルド・アクションがこの映画の半面。

ふたつめのひねりは、ミシェル・ロドリゲスの敵役にシガニー・ウィーバーを配したこと。シガニー・ウィーバーといえば、言うまでもなく「戦う女」のイメージをもった女優。『エイリアン』では、タンクトップにマシンガンでエイリアンに挑んだ。『レディ・ガイ』のミシェルの服装は、『エイリアン』のシガニーを下敷きにしているのではないか。シガニーは『エイリアン3』ではスキンヘッドにもなっている。この映画でも髪を男のようになでつけ、スーツにネクタイ姿にもなって、銃ではなく言葉で「戦う」。だから、この映画のミシェルとシガニーは「戦う女」の新旧女優対決といった趣きがある。

逮捕されたレイチェルは、ガレン博士(トニー・シャルーブ)の診察とカウンセリングを受ける。この部分は、シェークスピアやポーが好きで知識と教養を持ち、しかし精神に異常をきたしているかもしれないレイチェルとガレン博士の丁々発止の対話劇。単純なBムービー・アクションに終わらない。こちらの半面を面白がれるかどうかで、この映画の評価はがらりと変わってしまうだろう。

でも全体としてはアメコミのテイストで、シーンとシーンのつなぎ目がストップ・モーションでコミックの絵のようになる。そんな遊びが散りばめられた映画。ラスト、私は徐々に変化していった、とフランクの意味深な独白で終わる。女として生きる、ということか。


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January 07, 2018

上野・谷中・南千住を歩く

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正月、今年初めてのブログで新年のあいさつを書いていたら、古くからの知人の訃報を受けとった。となると、おめでとう、なんてとても書けない。そうこうしてるうち松の内も終わってしまった。故人についてはいずれ追悼の文章を書きたい。

今年の仕事はじめは、雑誌のコラムを書くための取材。明治維新で彰義隊と官軍が戦った跡を追って上野周辺を歩く。動物園前の広場には、かつて寛永寺の中心、根本中堂などの建物があった。官軍のアームストロング砲で破壊され、以来、がらんとした空間のまま現在に至る。

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今の東京国立博物館正門にあった旧本坊表門。官軍の砲撃、銃撃で大小の穴が開いている。現在は隣の輪王殿に移築されている。

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寛永寺の裏口にあたる三崎(さんさき)坂の寺に残る彰義隊の砲弾。

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寛永寺の正門にあたる広小路の黒門は今、南千住の円通寺に移築されている。多数の銃弾の跡が激しい戦闘をしのばせる。


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January 01, 2018

今年の映画 MY BEST 10

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今年もそんなにたくさんの映画を見たわけじゃないけど、年末のお遊びとしてベスト10を選んでみました。

1 ローサは密告された
今年はフィリピン映画の秀作が多かった。手持ちカメラが夜のマニラのスラムを走りまわる、骨太な人間ドラマ。密告と憎悪の連鎖のはてに、主人公が揚げ団子をほおばり生きる意思を露わにするのが感動的。

2 バンコクナイツ
バンコクに吹きだまった「沈没組」の日本人を通して見る、この国のリアルな姿。ロードムービーふうな後半では現実がふっと宙に浮き、ありうるかもしれないアジアが見える。

3 ブレード・ランナー 2049
リドリー・スコットとドゥニ・ヴィルヌーヴが見事に融合した。前作の美学を受けつぎつつ、ヴィルヌーヴらしい不安と懐疑の映画。ラスト、砂漠のロサンゼルスに降る雪が忘れられない。

4 オン・ザ・ミルキーロード
久方ぶりに会ったクストリッツァの世界に酔う。バルカンの陽気なリズムにのせて人間も動物も、戦争も愛も、ひとつの世界に融けてゆく。50代半ばになったモニカ・ヴェルッチが美しい。

5 マンチェスター・バイ・ザ・シー
ずいぶん古風な映画だけれど、風景も人間もじわっと染みてくる。離婚した夫と妻、叔父と甥、微妙な人間関係の微妙さを見事にすくいとった。

6 パターソン
ジャームッシュ健在。内容もスタイルも、映像で描いた詩。ニュージャージーの小さな町で、何も起こらない日々が、いちばん素晴しい。

7 立ち去った女
もう一本のフィリピン映画。冤罪で服役した女性の復讐譚を長回しカメラで見せる。路上に生きる貧しい人々の肖像と、哲学的つぶやきの取り合わせが新鮮な驚き。

8 お嬢さん
植民地朝鮮の支配・被支配の関係を、官能の支配・被支配に変換してみせた。被植民者のねじれた欲望、密室の暴力と笑い、濃厚なエロティシズムがいかにもパク・チャヌク。

9 エル ELLE
パリのブルジョア社会で繰り広げられる倒錯のゲーム。冷たい表情を崩さないまま欲望とエゴイズムを露わにするイザベル・ユペールがすごい。

10 彼女の人生は間違いじゃない
主人公は福島と渋谷を往復しながら、原発事故の補償金をパチンコにつぎこむ父との暮らしと、デリヘル嬢の日々。その内面は説明されず、切実さだけが伝わる。

番外(新作ではないけれど)
台北ストーリー 台湾ニューウェーブの幕開けを告げる傑作。
リュミエール! 最初の映画にはすべてがある。

ほかにリストアップした映画は、『午後8時の訪問者』『ノクターナル・アニマルズ』『密偵』『三度目の殺人』『彼女がその名を知らない鳥たち』『夜空はいつも最高密度の青空だ』『ホワイト・バレット』『静かなる叫び』『網に囚われた男』『変魚路』といったところ。一年間、おつきあいいただいてありがとうございました。


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December 29, 2017

『ビジランテ』 血と憎悪の物語

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Vigilante(viewing film)

埼玉県川口市に住んでいたガキのころ、病弱だった母親が温泉療養で草津へ行くのにくっついて大宮駅からよく東北線の汽車に乗った。鋳物工場の並ぶ工場街に育ったので、大宮を出るとすぐ車窓に一面の畑が広がりはじめ、まっ平な関東平野をどこまで行っても同じ風景なのが面白かった。突起といえば、遠く西のほうに秩父山地が見えるだけ。

『ビジランテ』で、その懐かしい風景に出会った。今では大宮を出ても延々と住宅地がつづき、熊谷を過ぎこの映画のロケ地である深谷あたりまで行かないと、ガキのころ見た光景は見えてこない。望遠レンズで捉えられた秩父山地を背景に畑のなかを電車が走ってゆくショットに、その記憶が蘇った。

この映画でも駅が出てくるシーンがあるけれど、深谷と明示されているわけではない(深谷は入江悠監督の出身地)。設定は関東平野の地方都市。市議会を牛耳る議員の死を契機に、彼の三人の息子が再会する。

長男の一郎(大森南朋)は10代のころ家を飛び出したが30年ぶりに愛人を連れて帰り、父が住んでいた無人の屋敷にころがりこむ。次郎(鈴木浩介)は父を継いで市議会議員になっているが、父の後釜のボスに頭があがらない。三郎(桐谷健太)は、デリヘルの雇われ店長で食っている。

町では後釜のボスを中心に、三兄弟の父が所有していた土地にアウトレットモールを建設する計画が進んでいる。その土地を一郎に譲るという公正証書を、一郎が持っている。一郎にその相続を放棄させろと、後釜のボスは次郎に圧力をかける。ボスとつながる暴力団幹部も三郎に圧力をかける。一方、莫大な借金を背負った一郎には、住んでいた土地の暴力団から取り立て人がやってくる。

三兄弟の父は、子供に暴力で君臨した父だった。そのトラウマを三人とも抱えている。父に反抗し家を飛び出した一郎は、セックスの最中に父と一緒に撮った子供時代の写真を見て無意識に首をかきむしるような動作をする。次郎は、父に従順に市会議員となった。末の弟の三郎は、兄二人を見ていたからだろうか、風俗業界でふわふわと根無し草の生活をつづけている。父の屋敷を舞台にして、三兄弟の確執に加えて暴力団が絡む。

もうひとつの暴力もある。市会議員の二郎は、自警団(ビジランテ)のリーダーをやっている。地域には出稼ぎ中国人が住み、騒音のもめごとから双方の暴力の応酬に発展する。

この映画のリアリティは、いま、この国に流れている空気を濃縮し、血と憎悪の物語として取り出してみせたことだろう。地方都市という狭い空間を舞台に、三兄弟を中心にさまざまな人間関係が入り乱れ、炎上する。この10年くらい、われわれの社会が持ちはじめた危険な空気の行き着く先を、いささか過激に描いている。面白かった。

冒頭、夜の川を少年時代の三人が父を刺して逃げるシーンはじめ、夜のショットが多い。その闇の暗さが、映画全体の空気を表わしている。撮影は大塚亮。この名前、憶えておこう。


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December 19, 2017

山下トリオ+類家心平を聞く

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このところ、若手のジャズ・プレイヤーでいちばん聞いているのがトランペットの類家心平。最初に聞いたのは菊地成孔ダブセクステットだった。このグループは1950年代マイルス・クインテットを現代化するというコンセプトなので、トランペットは当然大きくフィーチャーされる。その後、山下洋輔との共演も聞いた。菊地、山下といったごりごりの先輩ミュージシャンと対等にわたりあい、音色もすばらしい。

新宿PIT INNで「山下洋輔2DAYS」の2日目。山下トリオが1曲やった後に登場し、最初に演奏したのは「アイ・リメンバー・クリフォード」。夭折した天才トランぺッター、クリフォード・ブラウンの死を悼んでベニー・ゴルソンが作った名曲。山下が、この曲を演ろうと提案したそうだ。クリフォードの流麗な音とは正反対、フリーキーな音でのブロー。絞り出し、かすれたり、野太い音になったり。渾身のバラード。魂を揺するといえば大げさに過ぎるか。この曲はゴルソン自身の演奏をふくめたくさん聞いているけど、最上の演奏のひとつとして記憶に残るだろう。

「寿限無」など東京JAZZで聞いたナンバーだけでなく、はじめて聞いた山下ナンバーが面白かった。幻の映画音楽「幻灯辻馬車」(原作・山田風太郎。監督の岡本喜八が山下に依頼したあと亡くなった)の、ガス灯の下を馬車が駆けぬけるイメージを音にした明治の洋風リズム。ニューオリンズ・ジャズを山下ふうに取り込んだ「グルーヴィング・パレード」。9拍子でエスニックな「クルディッシュ・ダンス」。全員がめちゃくちゃにブローするイントロで、何が始まるかと思ったら「テイク・ジ・Aトレイン」のアンコールまで、楽しませてくれました。

ステージでも余裕たっぷり、サービス精神たっぷりの山下にくらべ、類家は自分の演奏が終わるとステージ中央で下を向き無表情に突っ立ったまま。目にかかる長い前髪を気怠くかきあげる姿は鬼太郎かブラック・ジャックか。いかにも音だけで勝負という姿がまたいい。


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水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』を読む

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水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書)の感想をブック・ナビにアップしました。

http://www.book-navi.com/


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December 15, 2017

塩原元湯温泉へ

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塩原元湯温泉へ行ったきた。

那須塩原駅からバスで1時間。箒川の両岸に開けた塩原の温泉街から送迎のバンに乗り、さらに奥へ入って尾根をひとつ越えると、赤川に沿って元湯温泉がある。温泉街で雪は降っていなかったが、元湯まで来ると雪模様。「2、3日前から降りはじめた。これが根雪になるね」と、運転手氏。

元湯には3軒の旅館があり、泊まった宿は3つの源泉を持っている。渓流沿いに大浴場と露天があり、湯は緑白色。肌にとろりとし、ぬるめなので、いくらでも入っていられる。ちらちら舞う雪を見ながら長時間つかっていると、これぞ温泉の快楽という気分になる。

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赤川から見た元湯温泉。

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川に沿って少し斜面を歩くと上滝がある。

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二つめの源泉は岩風呂。岩から温泉が染みだし、その湯がたまって風呂になっている。斜面の岩を取り込んだ、文字通り源泉の風呂。三つの源泉とも似た泉質で、含硫黄ナトリウム塩化物炭酸水素泉。湧きでたときは透明だが、空気に触れると緑白色、あるいは白濁する。

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この温泉は飲むことができる。胃腸病に効いたり、いろんな効能があるらしい。痛風にも効くとあり、小生、入院中に軽い痛風を発症したので、湯に入るたびに飲んだ。写真の飲用泉は冷えているので、かすかな硫黄臭と塩味しか感じないが、岩風呂の熱い源泉を飲むと、えぐい塩味となぜか甘味を感ずる。

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元湯というだけあって、ここは塩原でいちばん古い温泉。江戸時代には会津西街道の宿場として栄え、この絵図の寛永年間には50軒近い家が並び、8カ所の湯屋があった。ところが、それから数十年後の大地震で湯が出なくなり、元湯はさびれた。明治になって数軒の宿ができ、塩原という有名温泉でありながら秘湯の雰囲気を保っている。

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三つめの源泉はヒノキ風呂。あとのふたつは緑白色だけど、この湯は白色に近い濁り。冬休み前の平日とあって、客は少ない。風呂をほぼ独り占めで、贅沢な時間でした。

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December 11, 2017

小梅へ

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雑誌にコラムを書くため、取材で向島の小梅へ。かつての小梅村は、今の住居表示でいうと墨田区向島1丁目と押上1、2丁目。東京スカイツリーは旧小梅村に建っている。

小梅は江戸時代から江戸近郊の行楽地として栄え、梅林のなかに料理屋や大店の別邸があった。

明治初期のこのあたりについて書くのだが、関東大震災と空襲で二度焼けているから古い建物はなにも残っていない。当時の面影は、川と橋のみ。北十間川、大横川親水公園、業平橋、枕橋を歩く。写真は北十間川の枕橋からスカイツリー方向を見る。

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December 09, 2017

『ノクターナル・アニマルズ』 リンチとイーストウッドの結合

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Nocturnal Animals(viewing film)

真紅のカーテンの前で、異常に太った女が裸で音楽に合わせ踊っている。肉はたるみ、皺だらけの醜い肉体が、アメリカ国旗を手にしながら。異形の姿と真紅のカーテンの組み合わせは、どうしたってデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』を思い出させる。

のっけからおどろおどろしい映像が何かと思ったら、スーザン(エイミー・アダムス)がオーナーである美術ギャラリーの展示物。ロスでギャラリストとして成功したスーザンのもとへ、20年前に別れた夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から「ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)」という小説の草稿が送られてくる。エドワードはかつてスーザンを「ノクターナル・アニマル」と綽名で呼び、そこから発想された小説だという。ロスへ行くので会いたいとの伝言も添えられている。

スーザンは小説を読みはじめる。エドワードとスーザンを思わせる夫婦、トニー(ジェイク・ギレンホール)と妻のローラ(アイラ・フィッシャー)、娘のインディアが車でテキサスへ向かう旅に出る。夜の路上でレイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)ら3人のならず者にからまれ、ローラとインディアはレイプされ殺される。砂漠に置き去りにされたトニーは、警部補のボビー(マイケル・シャノン)とレイを追う……。

現実と小説の世界が同時進行する。現実世界も現在と、小説家志望のエドワードと美術史を学ぶスーザンが知り合った過去が交錯する。小説世界では、妻と娘がレイプされ裸で殺される。そのショットと、現実世界でスーザンの娘が裸でベッドで寝ているショットとが同じ構図で重なる。現実とフィクション世界がシンクロしはじめる。

現実世界で、ギャラリーをもつスーザンと夫のハットンは成功者。ハットンは自分のビジネスで各地を飛びまわりながら、不倫もしている。スーザンは、裸の女が踊るカルト的なアートを、陰で「ジャンク」と吐き捨てる。成功者の偽善の世界。エイミー・アダムス演ずるスーザンは、昼は知的で大人の女だけれど、かつてエドワードが「ノクターナル・アニマル」と呼んだわけは明らかにされない。セックスのことなのか、あるいは強いスーザンに対してエドワードが「自分は弱虫」と自覚せざるをえない二人の関係を比喩的にそう言ったのか。

一方、小説は負け犬の世界。3人のならず者に妻と娘をなす術もなく拉致され、レイプされ、殺された「弱虫」のエドワードは、病気で自暴自棄になった警部補のボビーにそそのかされて、2人で復讐にのりだす。舞台はテキサス、テンガロンハットをかぶるボビー、馬にかわって車で沙漠を走るシチュエーションは、いやでも西部劇を思い起こさせる。弱虫が、ガンマン(ボビー)の助けをえて復讐に乗りだす。ならず者を含め登場人物はみなルーザーで、負け犬同士が戦って自滅していく。

タイトルの「ノクターナル・アニマルズ」は、現実と小説の両方の世界に掛けられている。小説の部分は、それが十分に描かれる。一方、現実の部分では暗示にとどまる。ジェイク・ギレンホールが現実世界に現れるのは過去の回想だけで、現在には遂に登場しない。スーザンに送りつけた小説は、教師をしながら小説を書いている(この設定はアメリカ映画の負け犬の定番)エドワードの彼女に対する復讐なのか。スーザンの不安だけが増殖してゆく。ラストの宮殿ふうな日本レストランも、いかにも成功者の偽善を暗示する。

現実と小説とを対照させながら描く、華やかなセレブの偽善の世界と、西部開拓以来の地にうごめく男たちの世界。デヴィッド・リンチとクリント・イーストウッドがつながる。見事な心理スリラー。トム・フォードの脚本・演出は、これが2作目とは思えない。


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December 01, 2017

「怖い」2本立て

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昨日の午後は「怖い」映画と展覧会をつづけて。

まずは日比谷でアメリカ映画『ノクターナル・アニマルズ』。この作品については後で書くつもりだけど、デヴィッド・リンチふうな味つけのスリラー。現実と仮構世界と、両方で「怖い」物語が展開する。好きだなあ、こういうの。

雨が降り空が暗くなってきたなかを上野へ行き「怖い絵」展(~12月17日、上野の森美術館)。人気があると聞いていたが、入場まで20分待ち。ロングセラーになった中野京子『恐い絵』を基に、彼女が作品を選んだらしい。18~19世紀の写実的な絵画を中心に、テーマにあわせ有名無名とりまぜて集めている。

神話や聖書の物語。悪魔や地獄や妖精。歴史画。戦争や処刑。恐怖を忍ばせた崇高美学など。目玉であるドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は恐怖とエロティシズムが同居して見ごたえがある。フューズリ「夢魔」(よく印刷で紹介されているのは別バージョンらしいが)はこんな小さな絵だったんだ。

混雑する会場には若いカップルもたくさん。「怖~い」「グロ」「エロいね」と囁いてる。この時代の絵画は職人(工房)の仕事も多く、教訓や宗教的教えや歴史的事件の絵解きだったり、今でいえば写真やイラストやポルノでもあったから、芸術を鑑賞するというよりいろんな物語のなかに置いて楽しむのは正解かも。


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